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『ホーンズ 容疑者と告白の角』アジャ監督インタビュー 「スティーブン・キングが背中を押してくれたんだ」

2015.03.02 by

この記事は1年以上前に掲載されたものです。

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ホラー・スプラッター映画の名手アレクサンドル・アジャ監督と、“スティーブン・キングの子息”という経歴を隠して実力で人気を獲得した小説家ジョー・ヒル。この2人がタッグを組んだ異色の映画『ホーンズ 容疑者と告白の角』が5月9日に公開となる。主演は『ハリー・ポッター』シリーズの俳優ダニエル・ラドクリフ

『ホーンズ』ポスター

恋人殺しの容疑をかけられ、絶望するイグ。弁護士の親友こそ彼を支えてくれるものの、悲嘆に暮れる毎日を過ごしていた。しかしある日、彼の頭に突如“角”が生えてきたことによって、事態が一変する。その“角”を前にすると、人々は誰にも言わない胸の内をすべて口走ってしまうのだ。イグはこの角を使い、恋人殺しの犯人を探し始める――。

ジョー・ヒルの小説『ホーンズ 角』を原作としたこの映画は、“誰も彼もがすべてをさらけ出してしまうブラックコメディ”、“告白の角をめぐるダークファンタジー”、“恋人殺しの犯人を探すミステリー”、“犯人を見つけ出し復讐するサスペンス”、そして“若い恋人同士のラブストーリー”といった、あらゆるジャンルを薄めることなく一本の物語に濃密に詰め込んだ快作だ。

今回、この映画を監督したアレクサンドル・アジャにインタビューを行うことができた。

アレクサンドル・アジャ監督インタビュー

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――この作品を撮るきっかけを教えて下さい。

アジャ:もともと『ピラニア3D』の撮影中に出版前の原稿を送ってもらったのがきっかけだったんだ。まず第一章目を読んだら、シュールでユーモアがあって非常に楽しかった。しかし次の章では突如怖い話になって、その次の章ではまた可笑しくなって、その次には感動して……と、ページをめくるごとに違うエモーションを抱かせてくれて、この物語にとても入り込んでしまったんだ。この原作の主人公はもちろん自分とはまったく違う人生の経験をしているんだけど、人生の中にある初恋や裏切り、復讐……僕が一人の人間として人生に対して深く感じていることを、主人公がすべて経験しているんだ。悪魔の寓話的な要素も含めてね。
そして読み終える頃には、「どんなに難しくても、これを自分の手で映画化しなければいけない」と思っていたんだよ。その頃にはこの映画化権をプロデューサーのキャシー・シュルマンが獲得していたから、どうしても僕を監督に選んでほしくて、しばらく彼女をストーキングしたんだ(笑)

――驚くほどにさまざまなジャンルがミックスされた作品になっていますが、映画化は難しくなかったでしょうか?

アジャ:もともとこれが大きな挑戦になることは分かっていたんだけど、あらゆるジャンルを盛り込んだ映画を作るにあたって、僕以上に周りの人間のほうがもっと不安を感じているようだったね。そこで、脚本に関してはすべてのジャンルがリンクするような方法を模索しようと考えた。
90年代のアメリカ的な、カート・コバーンのような世界観。そして、キリスト教の堕天使の寓話。これらをリンクさせるのは、“自然”だ。この映画に登場する“大きな自然”が、異質のものをリンクさせてくれるんだ。
そしてもうひとつのリンクは主演のラドクリフ。彼は演じるキャラクターが考えていることを、全身で観客に伝えることができる役者だったんだ。彼が悪魔になっていき、そして“しょく罪”というものを見出し、最後に自分の恋に立ち返る。その主人公の人生の旅に観客を連れて行ってくれるのは、彼の力だ。こういう手法で、あらゆるジャンルが混在する世界に観客を誘おうと考えたのさ。

――完成したものを観て、周りの反応はどうでしたか?

アジャ:こんな言い方をするとおかしいかもしれないけど、これは僕たちの愛情で作った映画なんだ(笑)。カルト的な原作をキャストたちも深く愛し、入り込んでくれた。みんなでとってもエモーショナルに作っていたし、最高に楽しい現場だった。だから完成したときに、「その楽しさが“完成度”に反映されていなければならない」と期待値がとても上がっていた。そして完成した作品を初めて見せたのは、原作のジョー・ヒルなんだ。僕としては「もっと振りきったほうが良かったのに!」とかダメ出しされるんじゃないかと思ってドキドキしていたよ(笑)
でも彼はすぐに5回もこの作品を観てくれて、更には彼の父であるスティーブン・キングにも見せてくれたそうなんだ。すぐにメールをくれたよ、「最高だったよ」って! 

――スティーブン・キング先生はこの映画に対してなんと言っていたのですか?

アジャ:実はキングはね、この映画にとっても重要な役割を果たしてくれているんだ。というのも、映画っていうのは作り始めるとマーケティングの観点で制作や配給からあれこれ口を出されることが多いんだ。「これじゃ市場で厳しいから、ここをカットしよう」とかね。でもキングは「(周りの口出しに)負けるな」と最初に言ってくれたんだ。「これは、非常にユニークで強くて感動的でユーモアのある作品なんだから、マーケティングの人間にやいのやいの言われても負けるな。変えるな。そのままでいけ! 元々の魅力を壊されないように負けないでくれ」と。キングが、僕の背中を押してくれたんだよ。

――監督ご自身の感想も是非聞かせてください。

アジャ:原作のスピリットをきちんと映像化できたことにとても満足している。監督ってのは映画の完成までに何百回もそれを観なくちゃならないから、僕はあんまり自分の映画を観るのが好きじゃないんだけど、でもこの映画に関してはひとりの観客として観て、笑ったり、心が揺さぶられたり、心の底から楽しめる初めての作品だった。完成から一年くらい世界中でこの映画を観てもらったけど、どの国でもみんな同じリアクションをしてくれるよ。この作品にハマってくれる人には、人生を変えるくらいのインパクトを感じてくれているようだ。映画ってそういう力を持っているものだから、この作品がそういう映画になってくれてとても嬉しいよ。

映画『ホーンズ 容疑者と告白の角』
5月9日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国公開
公式サイト:http://horns-movie.jp/


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