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“何もしない”主人公の葛藤を描くリベンジ映画『PIGGY ピギー』監督インタビュー 「本当にいる若者のように感じてほしい」

2023.09.28 by


自分を日々笑い者にしているいじめ加害者たちに、“何もしない”ことで報復できるチャンスが訪れたら? スペインのカルロタ・ペレダ監督が「いじめをテーマにしたストーリーを作りたい」という想いのもと作り上げた『PIGGY ピギー』(現在公開中)は、一風変わった物語だ。

誰もが顔見知りの小さな田舎町で、同級生たちからいじめに遭っているサラ。大人たちはそれに気付いてくれず、家にも味方はいない。ある日サラはこっそり訪れたプールで体型をからかわれ、ひどく辱められた帰り道、先程まで自分をいじめていた少女たちが怪しげな男の車で誘拐されるのを目撃する。サラに気付いた少女は助けを求めるのだが……。

『PIGGY ピギー』場面写真

「私自身がLGBTQIAだったこともあり、10代のいじめのことを少しは理解しています。転校も多かったので色んな形のいじめを見ました。時には自分がターゲットになることもあったし、いじめられないように黙っていることもありました」と、物語のインスピレーションになる実体験を明かしているペレダ監督。

今作にはベースとなる短編作品があり、そこでは主人公がいじめ加害者たちを見捨てるところで幕を閉じる。しかし、長編版の今作では、サラは“何も見ていないことにする”と決めてから、長い時間をかけて葛藤することになる。事態は大きくなっていき、唯一真相を知るサラは肩身が狭くなっていく。痛めつけられた主人公が復讐に赴くスリラーは多いが、“何もしない”主人公のドラマを描く本作は異色の趣だ。

メールで質問に答えてくれたペレダ監督は、「キャラクターの人物像や田舎町という設定、そして、何かを“しない”と決めた人物をめぐる、誰かが殺されるようなスリラー映画を作るというアイデアを得たことで物語が発展していきました」と、その経緯を語る。「たいていのスリラーは人が積極的に何かをするというものですが、その逆をやって、内面の葛藤に焦点を当てるのが面白いと思ったのです

『PIGGY ピギー』場面写真

短編からサラ役を続投したのは、監督が2年をかけてようやく見つけ出したという逸材、ラウラ・ガラン。世界のどこにも居場所がないティーンエイジャーの鬱屈を、生々しく、そして親近感たっぷりに演じた。監督は彼女を「素晴らしい演技をするだけでなく、自信に満ちていて、とてつもなくて、さらに知的な大人です。そのおかげで、撮影の全ての過程が楽しさに満ちていました」と称賛している。

作中におけるサラの描き方も印象的だ。止まらないしゃっくりや不意の生理に手を焼かされるサラの姿は、ヘヴィーなストーリーにユーモアを添える役割を果たしつつ、映画上の作り物ではない現実世界の人物を見ているかのような錯覚を与える。あらゆる場面に散りばめられたリアルなディテールとその人間味に、自分との共通点を見出す観客は少ないだろう。だからこそ、彼女の行く末に目が離せなくなってくる。

「短編の方に登場するキャラクターは、ほとんど抽象的といえるものでしたが、本作では彼女が実在する人間のように描く必要がありました。そのために、たくさんのリサーチと観察を要しました。映画で描かれるようなティーンエイジャー像ではなく、本当にいるティーンエイジャーのように感じてほしかったのです

『PIGGY ピギー』場面写真

ペレダ監督自身が「さまざまなジャンルが混在した作品」「キャラクターに関して言えば、ひねくれた青春もの」と表現する本作は、ストレートなホラー映画ではないが、観ていて頻繁に思い起こされるのは『悪魔のいけにえ』だ。

「『悪魔のいけにえ』は傑作です。すべての登場人物がリアルに感じられ、雰囲気がとてもうまく作られていて、すべてが真っ昼間に描かれているところが大好きです。悲劇的なホラー・ゴシック物語を、耽美的な比喩に陥ることなく、そして現実の基盤を失うこともなく創り上げています。観た人をテキサスに誘うような作品です。私は『PIGGY ピギー』もそうなるよう求めました。ほとんど神話的でありながら、場所の感覚や暑さ、リアリズム、そして美しさを持つ作品に

ホラージャンルについて「他のジャンル映画よりもテーマ的にも形式的にも大胆だと思う」と言うペレダ監督に、お気に入りの映画監督を伺うと、「もちろん(ジョン・)カーペンター、そしてトビー・フーパー、パノス・コスマトス、黒沢清、ルシール・アザリロヴィック、ジョーダン・ピール、ナ・ホンジン、ナルシソ・イバニエス・セラドール……」と、巨匠から近年の監督までたくさんの名前を挙げてくれた。

『PIGGY ピギー』場面写真

“何もしない”サラが再びある決断をすることによって、物語は過酷なクライマックスに突入する。「映画をどのように終わらせなければならないか、観客にどう感じてほしいかは最初から決めていた」とペレダ監督。一方で、作り手が答えを押し付けるよりも観客それぞれに答えを持ってほしいと考えており、様々な反応をもらうことが嬉しいのだそうだ。

「世界中の人々が私に感想を送ってくれて、この映画に対する自分なりの解釈を話してくれる、そういうのは大好きです。自分の映画が他の誰かの中で命を吹き込まれていくと感じられるのは映画監督の醍醐味ですね

『PIGGY ピギー』
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