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第17回日本ホラー小説大賞長編賞を受賞、若手ホラー作家・法条遥のデビュー作『バイロケーション』が、角川ホラー文庫20周年記念作品として映画化。Blu-ray&DVDの発売が7月16日(水)に発売。
『バイロケーション』は世界中で実在報告がある怪奇現象“バイロケーション”を題材に、自分とまったく同じ姿、形、個性を持った“バイロケ”が自分の人生に侵食してくる恐怖を描く、究極のサスペンス・ホラー。もう1人の自分が殺しにくる斬新な設定、観る者を驚かす巧妙に張った伏線と衝撃のラスト。また史上初の試みとして、通常版「バイロケーション 表」と別エンディング版「バイロケーション 裏」を同時期公開しました。
本作のメガホンをとったのは、9月26日に公開される大人気ゲームの実写映画『劇場版 零~ゼロ~』の監督も務める、安里麻里さん。『バイロケーション』について「痛い痛いと思いながら脚本を書いていた」という安里監督。物語の見所などお話を伺いました。
「バッドエンドの方が好評です(笑)」結末を2つ作った理由
――作品を最初拝見させていただいた時に、2回目、3回目を見たくなる作品ですね。
安里監督:文章だと「私って一人称で書いていても実は二人いました」ってなっているトリック的要素だったんですね。だから脚本を書いていて、それを映像にするとき「どう嘘を成立させなくてはいけないのか」という部分についてとても悩みました。2人出てくるけれど、感情の糸がつながっているように、ひとりの人間に見せなくてはいけない。話がさもつながっているようにして、実は人が変わっているけれど、同じ人みたいに見えるように出来事を並べたりとか。でも、それが(見た目が全く)一緒になってしまっていたら、後で言われた時に分からないから、髪の毛縛っている人と下ろしている人とか、赤い部屋と緑の部屋とか。一応なんとなく言われたら「そういえば~」となるように記憶させること、微妙な違いをきちんと言っておくことがとても難しいかったですね。
――原作から生かした部分とか、逆に原作とは異なる部分などでこだわったところはありますか?
安里監督:原作で生かしているところは最後のオチですね。主人公がひとりは絵書いている方。もうひとりは結婚してしまった方という、お互いがお互いになりたいけどなれない。悲劇的に終わるという部分では、オリジナルが死んでしまってバイロケも消えてしまうっていうのが原作のオチだったんですけど、この物語はこれが一番のテーマだと思っていたので、そこを大事にしたかったんです。そのために前半、中盤をトリックとあせてどう作るか、赤い部屋、緑の部屋っていうのは原作にはないけれど、髪縛る、縛らない、などそういう差も映画ならではのやり方で付け足しました。あと、キャラクターも例えば高校生の加賀美っていう役は、原作では大人だったんですけど、あえて子供にしてかつ顔をわざと見えないようにしたりしました。人の記憶に残るように「ひとりだけ制服着た子供がいる」「なんだろう」という違和感をもたせるようにしたり、目しか見えなくて何を考えてるのかわからないといった風にしました。
その他も、キャラは結構変えていますね。真由美っていうお母さん役(酒井若菜さん)も変えています。物語が最初バイロケーションってやばい人、やばい存在なんだっていうのを滝藤さんで見せて、この人たちとのバトルの話なんだと思っていたら、中盤からお母さん役のキャラが、実はバイロケーションで、バイロケも人間だったんだ。そんなかかわいそうな普通の人間もいて、凶暴なだけではない、初めてバイロケーションの意味がわかるっていう。実は全部勘違いが起こしているとわかるんです。だから、後半は原作のオチにを意識して、主人公が実はそうでしたっていう風に引っ張れるように作り替えましたね。
――女性として身につまされる部分が多く、安里監督自身も脚本を書きながら痛い痛いって思いながら書いていたとインタビューで仰っていましたが、特にどの辺が執筆されていて辛かったですか?
安里監督:そうですね、「痛い、痛い」って(笑)。皆あると思うけど、もしかしたら一個の選択で全然違う自分になっていたかもしれない、結果が変わっていたかもしれないっていう「if・もしも」みたいなね。違う方を選んでいたらどうなってたんだろうって。固執するがあまり、逆に損したりとか、何か一個抜けられたから変わったりとか。その辺がいつも自分でも思っていたりするんですけど、特に桐村とか見ているとかわいそうでしょうがない(笑)。でも、かわいそうだけど「結構そういうもんだよね」って思ったり。
――何か個人的な体験というのを作品に取り入れたりとかはされましたか?
安里監督:この桐村や高村に関してはもともと原作がこういうオチなので、全部もらいものですけど真由美のお母さんと息子の関係性のところとかは自分の親を思いながら取り入れました。私は、妹が病気持ちで生まれてきて、母がずっと看病していて。その看病疲れしている母親の過剰な愛っていうんですかね、20代でまだ若いのに切羽詰って全国へこの子の病気を治すために飛び回っているっていうか……。思いが強すぎてどんどん追い詰められて疲弊していくかわいそうな母親っていうのをこの人に投影してしまったりとか。ある時、殺しそうになるっていう、そこまで人って追い込まれて、その時に「嫌だ、嫌だ、助けたい!」って思ってももうひとりの自分が出てくるとか。
――ちなみに今回は、表と裏の両方が特典として入っているわけですが、やはり最初は表から観た方がいいですか?
安里監督:そうですね、スタンダードに表から(笑)。
――女性は皆さん表が好きだって意見が多いみたいですね。
安里監督:そうですね、意外とバットエンドがウケていて、水川さんとかも絶対表でしょうって(笑)。やっぱりどちらか一方が残ってしまうと公平ではないじゃないですか。“どっちもなれなかった”っていうのがテーマなのに一方は死んで、一方は私子供できたので生き残りましたって言われると、「それはハッピーエンドなの?」って思うみたいです。
――ところで、なぜ2パターンのラストをお考えになったんですか?
安里監督:これは企画の段階でプロデュサーの小林さんが、「せっかくこういうネタをやるんだったら映画自体にもバイロケーションが生まれていいんじゃないか」っていうアイデアから生まれました。「なるほど、面白い」ってなって、その時丁度今言った2パターンのエンディングでどっちにするか悩んでたんですよ。私は表がいい。小林さんは裏がいいて言っていたので、「だったら両方ともやろう」と。観に行く人によって読後感が違うっていうのは面白いじゃないかと。そんな映画あってもいいじゃないかというのでやりました。
――鑑賞する上でのアドバイスはありますか?
安里監督:この映画は、謎解き要素も含まれているので、謎解きが好きな人は「解いてやるぜ」っていうモチベーションで観てもらえるといいなと思うんですけど、でも基本的には素直に何も考えず、観たほうが楽しめると思います。その方が、パンチが効くと思います。
水川さんは繊細で気遣いの人、ジャニーズの方は対応能力がすごい!
――今回、出演してくださった皆さんについてお伺いしたいんですけど、まず、水川あさみさんはいかがでしたか?
安里監督:本当に大好きになりました(笑)。初めてお仕事したんですけど、女優さんとしても本当に芝居力のある凄い方で、人としても尊敬できるというか、凄いクレバーな方です。テレビで見ているとサバサバした、男っぽいワイワイしてる感じの人ですよね。もちろんそういう人なんですけど、それだけじゃなくて、実は凄く繊細で人のことをとってもよく見ていて、気遣いのできるとっても女らしい人なんだなって思いました。だから今回の役に合っていたと思いますし、いろんなこと気づいているからこそ、空気を読んで自分を明るくしたりしていて、そういうところがいじらしくて可愛いです。頭がよくて(自分の)考えをしっかり持っている、流されるだけではなくて強さもある、そういうところがよかったですね。
――実際監督からご覧になって水川さん自体は役としてどっちのほうが合ってますか?
安里監督:多分、桐村だと思います。この人は桐村だと思います。繊細で気遣いの人で一生懸命なんですよね。どちらかというと損しそう(笑)。最近、『失恋ショコラティエ』とか見てても「あ、水川さんはこんな感じ」って(笑)
――Kis-My-Ft2の千賀さんとジャニーズJr.の高田さんのおふたりはどうでしたか?
安里監督:ジャニーズのかたは本当に凄いと思いました。千賀君も(映画が)初めてとは思えないくらい芝居力があって、「なんでこんなにできちゃうんだろう(笑)」みたいな。キャラクター的にも、とても一生懸命な男の子でそれが役に合っていて。そういう人だと思ってキャスティングしたんですけど。巻き込まれキャラっていう、頑張って、頑張ったんだけど人殺しちゃった……みたいなかわいそうなめにあって(笑)。でも、最後は「敵を倒す!」じゃないですけどね。座っているだけでもいい子な感じが出ているところが適役だったし、お芝居に望む姿勢が凄く紳士でよかったですね。
――千賀君は人を殺すシーンとかアクションがいっぱいあったと思うんですけど、それはいかがですか?
安里監督:殺すシーンは、あのとき体力的にも時間的にも一番きつい時だったんですけど、凄い集中してくれて……。「本当にありがとうございます(笑)」って思いました。
――現場ではどういうお話をされてたんですか?
安里監督:そうですね、現場では「御手洗がいい子だって思うような、観客が感情移入してしまう人にしたい」って伝えて、そこで一生懸命感をどうだすか、セリフの言い方も一生懸命喋っている風にしたりして。そういう演出をしていたので、高田君の演技を受けて「違う、こういう風にしたい」とか、そういうお芝居の話し合いっていうのはありましたね。
――飲み込みがはやいということですか?
安里監督:そうですね、対応力が凄かったですね。あとはアイドルなので身体能力がとにかく高くて、ワイヤーで吊ったり走ったり転んだりが、普通はこんなにできないですね(笑)。殺陣師の方にやってもらって、「はい、じゃあモノマネしてください」でやるわけじゃないですか。そしたらすぐできてしまうというか。ダンスをやっている体の動かし方とか、何かやってピタッと止まるとか、そういうのが小さい頃から鍛えられているからなのか、普通の人とはやっぱり違いましたね。
――この映画を撮影されて自分にとって勉強になったこと、今後に生かしていきたいことはありますか?
安里監督:そうですね、今までは定番なホラーをやってきたんですけど、新しいホラーのジャンルを作っていけたらいいなって思います。ほかのとはひと味違う、そんな映画を作れたらいいなと思いますね。普通のホラーとは一味違って見たあと自分だったらどっちだろうと考えるような内容になっているのでそういうところを楽しんでもらえたら嬉しいです。
2014年7月16日(水) Blu-ray&DVD リリース
バイロケーション<表><裏>を同時収録
【セル】ブルーレイ最恐・エディション(スペシャル・ビジュアルブック付) ¥6,200(本体)+税
【セル】DVD最恐・エディション(スペシャル・ビジュアルブック付)¥5,200(本体)+税
【セル】DVD スタンダード・エディション1枚組 ¥3,800(本体)+税
【特典】最恐・エディション(スペシャル・ビジュアルブック付 ※予定
【DISC1:本編DVD】
・「バイロケーション」本編(表)
・監督+キャストによるオーディオコメンタリー付
・「バイロケーション」裏
・予告編集
【DISC2:特典DVD】
・メイキング・オブ・バイロケーション
・未公開シーン集
・イベント映像集【封入特典】
・スペシャル・ビジュアルブック
・バイロケを見分けろ! 手鏡風特製ペーパーミラー(初回限定)
(C) 2014「バイロケーション」製作委員会