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2011年に映画『ムカデ人間』が日本公開され、複数の人間の口と肛門をつなぎ合わせるという前代未聞のストーリーが多くの人を驚かせました。3部作の構想で作られていた『ムカデ人間』シリーズも、8月22日公開の『ムカデ人間3』を以っていよいよ完結です。
『ムカデ人間3』はアメリカの刑務所を舞台に、囚人たちを“ムカデ人間”にすることによって暴動率・犯罪率を低減させようという、クレイジーなアイデアをクレイジーに活用する超問題作。1作目で主人公を演じたディーター・ラーザーが刑務所の極悪所長ビル・ボスを、2作目の主人公を演じたローレンス・R・ハーヴェイが所長の右腕・ドワイトを演じ、ムカデ人間の先頭を演じた北村昭博さんら、過去シリーズに登場した俳優がオールスターで登場することも話題になっています。
多く人に大きな嫌悪を抱かせるアイデアが、次第に熱狂的なファンをも生み出してきた『ムカデ人間』シリーズ。それらを生み出した張本人である、トム・シックス監督にインタビューをおこなうことができました。
トム・シックス監督 インタビュー
――“ムカデ人間”というアイデアはもともと監督ご自身がおっしゃった「犯罪者の尻と口を縫い付けちまえよ!」というジョークが発端だったと聞いています。『ムカデ人間3』で舞台が刑務所となり、そのジョークのとおりのことが起こるわけですが、これは『ムカデ人間』3部作を撮る当初から決めていたことだったのでしょうか?
トム・シックス(以下、トム):ああ、もちろんさ! あれはオランダのテレビを観ていたときに言ったジョークだった。それも「太ったトラックドライバーのケツに縫い付けちまえよ!」みたいな感じだったかな。何気なく言った言葉だったけど、“これは使える!”と思ったんだ。もし囚人の罰がそれだったら、犯罪率がグッと下がるかもしれない。それを『ムカデ人間』シリーズの完結編で描こうと思っていたんだ。
――『ムカデ人間』は最初から3部作の構想だったそうですが、最初の構想から物語の上で変わっていった部分はありますか?
トム:1作目を撮っているときは、3本の映画をすべて地続きにするという構想もあったんだ。4時間半の映画を3つに分けたようなね。この3部作については僕自身さまざまなアイデアを持っていたんだけど、1作目を観た観客からのリアクションを盛り込んでいった部分もある。「映画を観た奴がほんとに“ムカデ人間”を作ってしまったらどうするんだ?」と言われたのも取り入れたし、「本当に懲罰として“ムカデ人間”を取り入れるべきだよ!」と言われたのもやってみせた。
――一作目の舞台はドイツで、二作目はイギリスでした。そして完結編の舞台はアメリカです。この舞台はどうして選んだのですか?
トム:一作目でドイツを舞台にしたのは、“ナチスの医者”を描きたかったからなんだ。そして二作目のイギリスは、“英語圏”であり陰鬱なイメージがある場所として選んだ。いつも雨が降っていて、治安の悪い場所もあるからね。最後のアメリカは、ドカンと大きなラストにしたかったからさ。アメリカはすべてがXL(エクストララージ)であり、ムカデ人間もXLサイズにしたというわけ。
――XLサイズの500人のムカデ人間は、実際に500人が集まって撮影したのですか?
トム:そうとも! 『ムカデ人間』が公開されて以来、「『ムカデ人間』に出してくれ」という内容の手紙が何百通と送られてきていたんだ。一作目のときはキャスト集めに苦労していたのにね! それらの手紙からキャスティングエージェントが人選してくれて、選ばれた人たちを何台ものバスに乗せて撮影場所へと連れて行った。そうして出来上がったのが500人のムカデ人間さ!
――完成した“500人のムカデ人間”を見たときはどう思われましたか?
トム:とっても美しいと思ったよ! ビデオゲームの『SNAKE(ヘビゲーム)』のようだし、絵画のようでもあった。最高だと思ったね。
“ムカデ人間”を作る人間はナルシスト
――今作で“500人のムカデ人間”にも負けないほどのインパクトを持っているのが、主人公のビル・ボスです。彼の強烈すぎるキャラクターはどうやって作り上げていったのでしょうか?
トム:ビル・ボスは一作目のハイター博士と同じディーター・ラーザ―が演じてくれているんだけど、同じ俳優で、まったく違うキャラクターを演じてほしかったんだ。ハイター博士は緻密で物静かな男だ。そして、ビル・ボスは、声がでかくて頭が悪い、最大限に嫌な奴だ。かけ離れればかけ離れるほど面白いと思ったんだよね。彼はまず脚本を読んで、髪をきれいに剃り上げた。そうして、ビル・ボスの役に入っていったんだ。
――“正反対のキャラクターを演じてもらう”というのは、今回のドワイト役のローレンス・R・ハーヴェイさんにも言えるのでしょうか?
トム:そのとおり。ローレンスが2作目で演じたマーティンは不安定で無口で妙な男だった。3作目のドワイトは、仕事やお金のことをよく理解している知的な会計士だ。彼もビル・ボスと同じように、正反対のキャラクターとして作っていったんだよ。
――ムカデ人間を完成させたキャラクターたちは、必ず完成後に自分を鏡に映して見るシーンがありますが、あれはなにを象徴していますか?
トム:あれは“自己愛”の現れさ。僕はね、“いい人”っていうものがあまり好きではなくて、“悪い人”が好きなんだ。そして、“悪い人”っていうのは基本的にナルシストなのさ。
――なるほど。監督ご自身も……ナルシストですか?
トム:もちろん!! そうでなければいけないんだよ。カメラの前に立つ人間や、こうしてインタビューを受けるような人間は、すべてそうでなくてはいけないのさ。
――3作目にしてついにトム監督ご本人がご自身の役で映画に登場しましたが、自分で出てみるのはいかがでした?
トム:もうクレイジーな体験だったよ! 多くの人に「出なよ!」と言われたので出たんだけど、僕は役者じゃないからね、そんな僕でも楽しめる形で出ようと思った。自分で自分自身を演じるというのは“いかにバカをやれるか”ということでもあるから、映画のなかでゲロを吐いたりしてみたんだ(笑)。
――今作は過去の出演者が勢揃いしていますが、エリック・ロバーツさんやブリー・オルセンさんのように新しく参加した方もいます。彼らの反応はいかがでしたか?
トム:彼らは『ムカデ人間』の大ファンだと言ってくれて、出演するのを本当に喜んでくれたんだ。映画自体はとてもグロテスクだけれど、そういう風に愛を持ってこの映画に参加してくれる人たちによって、このシリーズは支えられているんだよ。1作目、2作目と公開するにつれ、ハリウッドでも知名度があがっていってね。いまやクエンティン・タランティーノやマリリン・マンソンもこのシリーズのファンだと言ってくれているんだ。最高だよね!(笑顔)
――沢山のファンを生んだ『ムカデ人間』ですが、ホラー映画やカルト映画ファン以外の、そこまで映画を熱心に観ない人たちまでもが「『ムカデ人間』って一体どういう映画なの?」と関心を持っているように感じます。人々がそうやって『ムカデ人間』に興味を持ってしまうのはどういう理由だと思いますか?
トム:そうだね、“ムカデ人間”というアイデアはとても強烈なものだと思うんだ。アグレッシブなウイルスのようなもので、一度観てしまうと「もっと観たい」「もっとこれについて話したい」と思うようになってしまう。同時に、とても“気持ちの悪い”映画でもある。自分の口が誰のケツに縫い付けられるってことを想像すると、すごくグロテスクだろう。ただ、人はそれに好奇心を感じてしまうんだな。「自分でさえなければ、誰かが他の人の尻に縫い付けられるのなら、見てみたい」と思ってしまうんだよね。
トム・シックスの映画製作について
――『ムカデ人間』のようなクレイジーなアイデアは常に考えているのでしょうか?
トム:そのとおり! クレイジーなアイデアがたくさんあるんだよ。これは子どものころからそうなんだ。大きな想像力がアイデアをどんどんクレイジーにしていくんだ。逆に言うと僕はロマンティック・コメディみたいなのは撮れないな! 必ずしもどこか奇想天外な作品ばかりになってしまうね。
――監督ご自身のお好きな映画や、影響を受けた作品はありますか?
トム:僕はカルト映画のファンで、ホラー映画ばかりでなくてコメディやダークコメディも好きなんだ。僕にとってのオールタイム・ベストはパゾリーニの『ソドムの市』だね。それにジャック・ニコルソンが出ている『シャイニング』も好きだな。日本の映画では『オーディション』や、塚本晋也監督作品、『バトル・ロワイアル』も大好き。素晴らしい映画だよ。影響を受けた作品については、僕は自分のアイデアを大事にしているから、作る映画自体にそこまで強い影響は受けていないと思うんだけど、強いて言うなら先にあげたパゾリーニとディヴィッド・クローネンバーグ。クローネンバーグの『ザ・フライ』や『クラッシュ』だね。彼らは「見せたいものを見せる」ということを恐れていない。そして、万人受けするものを作らなくてもいい、“こわい”ものを作ってもいいんだということに、若いころの僕は勇気づけられたんだ。
――映画製作に対するご自身の美学を教えて下さい。
トム:自分にとって一番大事なことは、ストーリーが観る人の記憶にどう刻まれるかということ。基本的に、“見たことのないもの”を観客に見せたいと思っているんだ。最近の映画は「このアイデアはどこかで見たぞ」と思う部分が多い。「100パーセント誰も見たことのないものをつくる」……これが僕の美学さ。
――『ムカデ人間』の主人公たちは、自身の大きな野望を映画のなかで叶えるわけですが、監督ご自身になにか野望というのはありますか?
トム:そうだな……彼らは僕に似ているところがあるかもしれないな。彼らはムカデ人間を作ることに取りつかれているけど、僕はとにかく映画を作ることに取りつかれているんだ。映画に使いたいアイデアが沢山あって、それらをすべて産み落としたい。赤ん坊の欲求のように、映画を“生きたい”んだ。
――このところ新作の準備を進めているようですが、その作品についておうかがいしても?
トム:もちろんだとも!『The Onania Club』といってね、IMDBにも登録されているから見てみて![リンク] ただ、詳細は明かせないんだな。僕は秘密裏に仕事を進めたいタチだからね。アメリカで撮影することは決まっていて、とても邪悪でダークな作品になるということだけお知らせしておくよ。今はキャスティングの真っ最中で、2016年の早い段階で撮影をして、年末までには完成させるつもりさ!
――最後に『ムカデ人間』のファンに向けてメッセージをいただけますか?
トム:1や2が気に入ったなら、3もきっと気に入ってもらえると思うよ! 3作すべてでまったく違う体験をしてもらいたいし、してもらえる作品になったと思う。それは僕のとても大事にしていることなんだ。今作の主人公ビル・ボスは最低最悪の邪悪な男だ、きっとみなさんもお気に召すだろう。アトラクションに乗ったような気持ちで、是非楽しんでくれ!
映画『ムカデ人間3』は8月22日より、新宿武蔵野館ほかにて全国順次、愛と感動のロードショー。さらばムカデ!!!