この記事は1年以上前に掲載されたものです。
サンダンス映画祭で話題をさらい、ギレルモ・デル・トロやエドガー・ライト、スコット・デリクソンといった名だたる映画監督らからも絶賛された話題のリベンジスリラー映画『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』が11/10より日本公開。
関連記事:狂ったニコラス・ケイジが狂ったカルト集団をブッ潰す!! 『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』日本公開
独特な世界観で描かれるのは男の熱い復讐の物語だ。主人公のレッドは、突如謎のカルト集団に最愛の妻マンディを惨殺され、あらゆる武器を手に復讐へと乗り出す。怒りに狂うレッドをパワフルに演じるのはニコラス・ケイジ。ミステリアスで女神のような女性・マンディは、カメレオン女優とも称されるアンドレア・ライズブローが演じた。
監督・脚本は、今作が長編2作目となるイタリアの映画監督パノス・コスマトス。『ランボー/怒りの脱出』や『コブラ』を手掛けたジョルジ・パン・コスマトス監督と、スウェーデン人の彫刻家の母の間に生まれ、ある種表現者のサラブレッドとも言えるコスマトス監督。その創造性が遺憾なく発揮された今作についてお話を伺った。
――監督の長編作品は、この『マンディ』と、2010年の『ビヨンド・ザ・ブラック・レインボー』(※日本未公開)の2作です。この2作品はご両親の死をきっかけに生まれたそうですが、その経緯を教えてもらえますか。
パノス・コスマトス監督(以下、コスマトス):『ビヨンド~』は支配された環境下から抜け出そうとする主人公の物語でした。それは僕にとっては喪に服すというか、哀しみの発路を探すような意味合いだったんです。“クリエイティブな形の哀しみの発散”と言うんでしょうか、そういった作品を作るなかで自分の気持ちをどう整理できるか試みていた。
その作品を経て、“復讐”というアイデアが出てきたんですね。そのころチャールズ・ブロンソンの『デス・ウィッシュ(狼よさらば)』のシリーズを全部観ていたんですよ。復讐ものの映画を沢山観ていましたね。そこでかなり感情が蒸留されていった(笑)。人間の原始的な野蛮性を描いた映画って今なかなかないような気がするんです。少しファンタジーな形でそういった面を強調した作品が作りたいなと。
――原始的な感情を描く題材として復讐劇を選んだということですね。
コスマトス:ええ。僕にとってはそれがとてもフィットしたんですね。映画の題材として“復讐”ってとてもシンプルなんですよ。目標が分かっている、そして目標を達成するために様々な要素を組み込むことができる。構造としてとてもわかり易く、なおかつすべての感情を詰め込むことができる形態なんですね。
ニコラス・ケイジに教祖役をやってもらうはずだった
――ニコラス・ケイジは当初、主人公が立ち向かうカルト集団の教祖役でオファーされていたそうですね? なぜ主人公になったのでしょうか。
コスマトス:あの教祖は傲慢でセルフイメージに取り憑かれた男です。あの役をニコラス・ケイジにという案が出た当初、僕としてはそのアイデアに心酔していたんですよ。その気マンマンでニコラスに会ったら、「いや、僕はレッド(主人公)をやりたい」と言い出して。「あなたのことはとても尊敬しているし一緒に仕事はしたいんだけど……」と、一回断っちゃったんですよ(笑)。そのあとで、僕は完成した『マンディ』を自分で観ている夢を見たんです。その中ではニコラスが主人公を演じていた。そこで「これは神様からのお告げだな」と思って、彼に主人公をお願いすることにしたんです。
――なぜニコラスが教祖役を受けなかったのか聞いていますか?
コスマトス:もうね、ただ「レッドがいい、レッド役がやりたい」とだけ(笑)。アハハハハハハ! ニコラスとしてはレッドになにか共感というか、惹かれるものがあったんでしょうね。自分なら面白くやれるという自負もあったでしょうし。でも完成した映画を観ると、この主人公は彼以外考えられないなと思いましたよ!
――ニコラスのエモーショナルな演技があの役にすごくハマっていました。
コスマトス:すごくすっごく生々しい演技ですよね。それも一面的な感情でなくて、多面的な感情を表現してくれた。彼がこの役を演じてくれたことに心から感謝しています。彼はとてもオープンな人で、彼と映画を撮る上でさまざまなディスカッションをしました。彼からのアイデアも盛り込みながら、ふたりで作り上げていったのがレッドというキャラクターです。
チーズを吐くゴブリンで決まりじゃない?
――私は劇中に登場する“チェダー・ゴブリン”のCMがかなりツボにハマってしまったんですが……あのキャラクターはどうして生まれたのでしょうか。
コスマトス:アハハハハハハ! あれはですね、まず、マンディを失ったレッドが家に帰って、何がテレビに写っているべきかと考えました。かけがえのないものを失くして、それを埋めるものは何もないと気付く。そういった形容しがたい心境をどう描くか。プロデューサーと冗談めかして色々と話してたんですよ。「ゴブリンが来てチーズをブワ~ッと吐くのとかどう?」なんつって。ただ色々話した末にやっぱり「それじゃない?」と。「チーズを吐くゴブリンで決まりじゃない?」と。
チェダー・ゴブリンのCM部分はキャスパー・ケリーという監督に撮ってもらいました。『グーリーズ』(1985年のモンスター映画)とチーズのCMなんかを見せて、「こんな感じで」と……まあ、僕『グーリーズ』が全然好きじゃないんですよ(笑)。アハハハハハ! その嫌な感じを活かしてもらいました(笑)。そうやって生まれたチェダー・ゴブリンも今やセレブですよ! アハハハハハ!!
Doing a little tourism before the #LFF2018 premiere tonight. I’m actually already dressed for it. Is my bow tie straight? pic.twitter.com/mOWX646X13
— Cheddar Goblin (@CheddarGoblin) 2018年10月11日
※↑ チェダー・ゴブリンのTwitterアカウント。なぜか映画の公式アカウントよりもフォロワーが多い
今までやってきた様々な表現の集大成が僕の映画
――設定や物語に多くの謎があるのがとても印象的です。そういった部分は観客のイマジネーションを刺激する意味合いがあるのですか?
コスマトス:どこで見たのか僕も思い出したいんだけど……“見せない部分も見せる部分と同じくらい重要だ”という言葉があったんですね。特に前作『ビヨンド~』を作ったときはそれを強く意識していました。映画の大きな要素を見てもらって、描かれていない部分に関してもそこからイマジネーションをふくらませる。観る人がそういった“映画との関わり方”をすることでより満足度が得られるそうなんですね。それに関しては僕自身も観客として感じていることなんです。
――謎の多い物語もそうですが、監督の作品はとにかく独特の世界観を持っていますよね。その創造性はどこから来ているのでしょうか。
コスマトス:そうだなぁ。僕も映画を撮り始める以前に、自分の作りたいものや、自分のスタイルを模索していた時期がありました。色々な美術やコラージュ、写真、実験的な音の制作にもトライしてみたんです。ただ、そういった様々な表現欲求を統合してできるものが映画だったんですよ。自分の持つ興味を集約できるものとして、僕は映画を作りたいんだという結論に至ったんです。
あとは自分の映画言語を突き詰めていく作業ですね。1作目を作る前に自分のビジョンを見せるためにミュージックビデオを一本撮ったんですね。そこで僕の今のようなコンセプトが詰まっていたと思います。なので創造性のために何かをやるというより、今までやってきた様々なことの集大成として今の僕のクリエーションがあると思います。映画に登場するマンディも絵を描きますが、創作や表現をコミュニケーション手段として使うと、より人生が豊かになると思うんですよね。
※↑ コスマトス監督が2007年に制作したMV(Handsome Furs『Dumb Animals』)
映画表現はやり尽くされてなんかいない
――今作には監督の好きだったカルチャーが様々なところに散りばめられているそうですね。好きなものを詰め込んで新たなものを創作するのが監督のスタイルという感じでしょうか。
コスマトス:そうなるでしょうね! 特に今作に関しては。自分の若いとき・幼いときに持っていた感性を呼び覚まして、それを爆発させたのが今回の映画なんです。
――お父様が映画監督であることはよく紹介されていますが、お母様は彫刻家だそうですね? お母様からもやはりクリエイティブ面で影響を受けていらっしゃいますか。
コスマトス:父は映画監督ですから実践的な映画製作を学ばせてもらいました。そして僕の創造性を育み、それを伸ばしてくれたのが母です。母はオープンで実験的な彫刻家でした。僕のスタイルは80年代のアクション映画を撮ってきた父と、自分の内面を見つめて実験しながら創作する母、その両方がミックスされたものだと思っています。
――なんだかとても納得しました。
コスマトス:それはよかった! ハハハハ!
――前作と今作で、ご両親の死から生まれた創作が完結したと思いますが、そこである種満足もしておられるのかなと思うんですね。今後は映画作品は作っていかれるのでしょうか。
コスマトス:僕はジャンル映画というものが大好きなので、一生作っていくと思いますよ! ただ、前作と今作は本当に陰と陽、対を成すような関係性をもったものです。なのでその創作については完結したと言えます。だけども今後の作品については、映画の限界を押し広げるような実験的なものに取り組んでいきたいと思いますね。「映画はもう死んだ」とか、「映画の表現はすべてやり尽くされた」と言う人もいますけど、僕はまだやり尽くされたなんて思いません。まだまだやれることはあると思っていますよ。
作品概要
『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』
2018年11月10日(土)日本公開
監督:パノス・コスマトス
音楽:ヨハン・ヨハンソン 『メッセージ』『博士と彼女のセオリー』
出演:ニコラス・ケイジ『ゴーストライダー』、アンドレア・ライズブロー『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』、ライナス・ローチ『フライト・ゲーム』
2017/ベルギー/カラー/英語/121分 原題MANDY
配給:ファインフィルムズ 公式サイト:www.finefilms.co.jp/mandy