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人間を捕食する“ハングリーズ”への絶望と戦慄のクライマックス『ディストピア パンドラの少女』レビュー

2017.07.01 by

この記事は1年以上前に掲載されたものです。


英国の作家カズオ・イシグロの名作『わたしを離さないで』。本はもちろん、映画やドラマ化で観て、その静かな感動が胸の奥深くにずっと残っている方も多いでしょう。また、大人気米ドラマ『ウォーキング・デッド』は、世界の終末、無秩序、裏切り、情け無用のゾンビホラーの名作として今も続いています。そんな二つの要素がミックスされた独特の世界観で日本でも大評判となった小説、M・R・ケアリー『パンドラの少女』(茂木健訳/創元推理文庫)の映画化『ディストピア パンドラの少女』が7月1日(土)から公開されます。

舞台は近未来のイギリス。塀に囲まれた軍事基地の中では、子供たちが窓もない独房に閉じ込められ、武装した兵士達に厳重に監視されています。部屋から出される時は銃を向けられ、身体中を縛られて車椅子で移動させられ・・・なぜなら彼らは“ハングリーズ(餓えた奴ら)”と呼ばれる、人間を襲って喰らう捕食者なのです。ハングリーズは、突然変異したキノコの菌から誕生しました。感染すると思考能力が消滅、外見も醜く変身し、音や匂いに反応して生物を襲います。襲われた者もまたハングリーズになり、その数をどんどん増やし、今や人間を含む地球上の生き物が絶滅の危機に瀕しています。

主人公メラニー(セニア・ナニュア)は、ハングリーズの第二世代。感染していますが、思考能力と見た目は人間のまま。彼女を含む子供たちは、人類滅亡を救う実験材料のサンプルとして生かされているのです。物語は、そんな子供たちの授業を受け持つ女性教師ジャスティノー(ジェマ・アータートン)と、職業軍人パークス(パディ・コンシダイン)、研究のためにはどんなことでもする科学者コールドウェル博士(グレン・クローズ)を中心に、生き残ったわずかな者たち VS 凶暴なハングリーズの凄絶な生存競争が、恐怖と緊張感たっぷりに描かれます。次々に襲いかかる危機と絶望。はたしてメラニーたちは人類の未来を救えるのでしょうか。

原作と映画を比較すると、メラニーと教師ジャスティノーの人種が入れ替わったり、原作でパンチを効かせたあるエピソードが切られていたりと若干変更はありましたが、原作者自身による脚本は、物語を通して伝えたかったことを2時間弱にうまくまとめています。映画ならではの見所は、新人セニアの卓越した演技に、子供たちが変貌する衝撃的なシーンや、終末感あふれる廃墟の美しさ。一方原作では、登場人物の細かい心情の変化や、世界崩壊に至るまでの詳しい状況、そして戦慄のクライマックスがとてつもない臨場感で描かれ、一気読み必至です!

筆者は先に原作を読みましたが、どちらが先でもまったく問題はありません。尚、原作者ケアリーはアメコミの原作者としても有名で、その経歴は文庫下巻の添野知生氏によるあとがきに詳しく書かれています。最後に、ケアリーのHP(英語)では、刊行時に削除された後日談が読めますので、気になる方は本作を観た(読んだ)後にチェックしてはいかがでしょう。この夏唯一のゾンビ感動作、『ディストピア パンドラの少女』、ぜひ映画と本の両方でお楽しみ下さい!

【プロフィール】♪akira
翻訳ミステリー・映画ライター。ウェブマガジン「柳下毅一郎の皆殺し映画通信」、翻訳ミステリー大賞シンジケートHP、月刊誌「本の雑誌」、「映画秘宝」等で執筆しています。

『ディストピア パンドラの少女』
http://pandora-movie.jp/

(C)Gift Girl Limited / The British Film Institute 2016

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