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[オススメ映画]『ザ・バニシング -消失-』があぶり出す人間の“興味”の底知れぬ恐ろしさ

2019.03.22 by

この記事は1年以上前に掲載されたものです。

興味本位で観てみたら、うっかり“悪”に触れてしまった。その手触りが強烈に焼き付いて、もう二度と忘れることができない――映画『ザ・バニシング-消失-』を観たあとにそんな戦慄をおぼえました。

1988年にオランダで公開され、30年の時を経て日本での劇場初公開となる本作は、失踪した女性をめぐる二人の男の心理劇。巨匠スタンリー・キューブリックはこの映画を3回観て「今まで観たなかでもっとも恐ろしい映画だ」と評しています。

バカンスの最中に突如姿を消した恋人・サスキアの行方を3年間探し続けるレックス。失踪した理由も、行方も、生死も分からない。忘れるべきなのか、そうでないのかも分からない。真実を知るために行方を追い続ける――レックスのこの心理はしごく真っ当で、正しく愛によるものだったかもしれませんが、長過ぎる時はそれを狂気じみた執着に変えてしまいます。

一方で、サスキアの行方を唯一知る男・レイモン。日常では良き夫・良き父である彼もまた、自分の“知りたいこと”に執着し続ける男でした。そこにたどりつくために彼が行う、“歪んだ実験”とは? 彼は、真実を知りたいと望むレックスに手紙を送り始め……。

このふたりが出会うとき、いびつな歯車がカチリとあわさって、絶望的なクライマックスへと突き進んでいきます。

あらすじを読んでハッピーエンドを想像する人は少ないでしょうが、「絶望的なクライマックスが待ち受けている」と知っても尚、その結末に興味を持ってしまうなら、この映画があぶり出す人間の潜在的な“狂気の火種”があなたの中でも疼き始めているのかも。

「これを映画として見せていいのか」と思ってしまうほど、あまりにも具体的に描かれていく人間の深淵。「原作者は、監督は、どんな想いでこの映画を生み出したのか」と興味を持ってしまうのもまた、人間のさらなる深淵を覗くようでためらわれるほど。

“オススメ映画”だなんて軽く言っていいものか分かりませんが、とてつもない映画なのは確か。興味を持ってしまったのなら、その正体の恐ろしさを知っておく意味で、観ておくことをおすすめいたします。

作品概要

『ザ・バニシング -消失-』
2019年4月12日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次公開
提供:キングレコード   
配給:アンプラグド

監督:ジョルジュ・シュルイツァー『ダーク・ブラッド』『マイセン幻影』  
原作:ティム・クラッベ  
脚本:ティム・クラッベ、ジョルジュ・シュルイツァー
出演:ベルナール・ピエール・ドナデュー、ジーン・ベルヴォーツ、ヨハンナ・テア・ステーゲ、グウェン・エックハウス
1988年/オランダ=フランス合作/106分/カラー/ヨーロピアンビスタ/原題:SPOORLOOS

(C) 1988, Argos Film, Golden Egg, Ingrid Productions, MGS Film, Movie Visions. Studiocanal All rights reserved.  

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