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『ゴーストランドの惨劇』パスカル・ロジェ監督インタビュー 「僕が目指しているのは“あなたの心を揺さぶる”ホラー映画」

2019.08.08 by

この記事は1年以上前に掲載されたものです。

『ゴーストランドの惨劇』パスカル・ロジェ監督インタビュー

凄まじい拷問の果ての“殉教”を描いたハードコア・ホラー『マーターズ』(2008)でその名を世に知らしめたフランスの鬼才、パスカル・ロジェ監督。

彼の最新作となる『ゴーストランドの惨劇』が8/9よりいよいよ公開。ロジェ監督がパリからスカイプインタビューに応じてくれた。

シングルマザーと双子の姉妹の一家が味わう恐怖を描いた『ゴーストランドの惨劇』。『マーターズ』以降、似たような作品を期待されることも多かったであろうロジェ監督だが、前作の『トールマン』同様、本作もかなりテイストが異なる作品となっている。本作を撮るまでに一体どんな想いがあったのだろうか。

パスカル・ロジェ監督「僕は映画を作るときにファンのことは意識しないんです。『マーターズ』はカルト的なファンがついてくれた作品ではありますが、実は作った当初はそれほど評価を得ていなくて、人気が出るまでに7年ほどかかっている。その間、別の表現を模索しようとして出来上がったのが、全く違うタイプの『トールマン』だったんです。

『トールマン』のあとは2年ほどかけて『THE GIRL』という作品を準備していました。これはセンチメンタル・スリラーという感じの物語なんですが、脚本を書いて準備を進めていたけれど製作費がうまく集まらなかった。僕はその一件で怒りとフラストレーションがどんどん溜まっていて、家賃だって払わなきゃいけないし、もうどうしようかと……。そこで低予算のホラー映画を撮ることにして、非常にスピーディに書き上げたのが『ゴーストランドの惨劇』の脚本だったんです。そのときの僕のフラストレーションがこめられていますよ!」

『ゴーストランドの惨劇』

本作の主人公は、正反対の性格を持つ双子の姉妹。奔放でイマドキな姉のヴェラに対し、妹のベスはラヴクラフトを崇拝する小説家志望の内気な少女だ。自身もトビー・フーパーやダリオ・アルジェントなど伝説的なホラー映画監督を崇拝しているというロジェ監督は、ベスのキャラクターに自分自身を投影していたという。

ロジェ監督「ベスのパーソナリティはかなり自分に近いです。もうほとんど“14歳のころの僕”ですよ。ベスにおけるヴェラのように、僕にも性格が正反対の兄がいます。兄のことは愛しているけれども、本当に真逆。兄は地に足がついていて、芸術も信じないしイマジネーションも信じない、バリバリ現実を生きているタイプ。僕のほうは逆に「リアリティ? なにそれ?」って感じで、子供の時から夢や空想を広げているタイプだった。そういった自分の兄弟関係が、この物語のスターティングポイントとしてぴったりとハマったんです」

『ゴーストランドの惨劇』場面写真

双子の姉妹と母親が越してきた新居に暴漢が押し入ったことで、恐ろしい物語が幕を開ける。母親は娘を守るために決死の想いで暴漢を殺害。ベスは事件以降、家を出て小説家になる夢を叶えていたが、一方でヴェラは精神を病み、家に残って母と暮らしていた。物語は大人になった姉妹を軸に、更なる恐ろしい展開を迎えるのだ。

様々なトリックと伏線が仕掛けられており、目を覆いたくなるようなおぞましい恐怖描写がありながらも、必ず“2度観たくなる”作りになっている本作。『マーターズ』や『トールマン』でもそうだったように、映画の中でこれまでの物語の見え方がまるっと変わるツイストのある構成が、ロジェ監督の特徴とも思える。

ロジェ監督「実は物語を書くときにそういう構成にしよう、ということは意識していないんです。自分がどうやって物語を着想して、映画に落とし込んでいるかというのは自分でも毎回よく分かっていなくて。ただ、紙に向かって、物語を書き始めるところからスタートする。今回のお話は、中盤でツイストを入れることで後半をまったく違った視点で描けるなと思いました。それもまた、物語を書き進めていく中で思い付いたこと。“この映画の本質はイマジネーションにある”とようやく自分で理解できたからなんです。僕は先入観を持たずに書き始めて、有機的に物語が出来上がっていくタイプなんです」

『ゴーストランドの惨劇』

ロジェ監督は『マーターズ』や本作について「“ホラー映画”として作った」と明言している。しかし、いわゆる“ホラー映画”というと、ティーンエイジャーが友達と気軽に観に行くような、恐ろしい見せ場がいくつも散りばめられたアトラクション的な映画を思い浮かべるのではないだろうか。一方でロジェ監督の作品は、そういった瞬間的な恐怖を楽しむようなものとはかなり性質が異なっている。この相違についてはどう考えているのだろうか。

ロジェ監督「本当にそのとおりなんですよ。アメリカのメインストリームのホラー映画における“ホラー”の捉え方と、僕の考える“ホラー”の捉え方は、本当に本当に遠いものだと思います。安っぽい俗悪的なジャンルだと捉えている人もいるけれど、僕は“ホラー”というジャンルは、とても親密でパーソナルなものを込められる素晴らしいものだと思っているんです。ティーンエイジャーの頃からとてもシリアスに受け止めていたし、“自分の心が動かされるもの”としてホラー映画が存在していた。自分自身について知ることができるジャンルであり、自分の心理の深いところで様々なものを感じ取れるものなんです。その頃から僕とホラー映画の関係は変わっていません。ホラー映画に対する姿勢というのは、いわゆる作家主義的な姿勢で映画を作る監督と全く一緒なんです」

ホラー映画というジャンルに対して最大限のリスペクトを表するロジェ監督。果たして彼の目指す理想の“ホラー映画”像とは?

ロジェ監督「他の人はどうか知らないけど、10代のころ僕はすごく居心地が悪くて、不安を感じていることが本当に多かった。15歳くらいのときなんて、僕は女の子にもモテないし、“自分は醜いのかもしれない”とか、“自分はモンスターなんじゃないか”とか、そういう事を考えながらフランスの小さな町で暮らしている少年だったんですね。そのころに出会ったのがホラー映画だった。ホラー映画は、僕がモンスターだったとしてもそれでいい、世界には居場所がある、モンスターにだって尊厳があるんだよと教えてくれるものだったんです。僕のホラー映画を過激だと感じて、“極端なゴア”だとか、“めちゃくちゃ暴力的”だとか言う人もいるけれど、僕は観客にショックを与えたいわけでも、不快にさせたいわけでもないんです。僕のゴールはあなた(観客)の心を揺さぶること。僕のハートにあるのはいつもそれなんです

『ゴーストランドの惨劇』
8月9日(金)より、新宿武蔵野館 ほか全国順次ロードショー

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