
YouTuberという経歴が大きな話題を呼んだ、気鋭監督ダニー&マイケル・フィリッポウ。現代的降霊会ホラー『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』(2022)で鮮烈なデビューを飾った彼らの、長編2作目となる『ブリング・ハー・バック』がいよいよ公開だ。
本作では、父を亡くしたティーンエイジャーの兄妹が、里親のもとで味わう思いもよらぬ恐怖が描かれる。同居する謎の少年オリバーの存在や、里親ローラの振る舞いにどこか不自然さを覚え、警戒する兄アンディ。一方ローラはそんな彼の態度に気付きつつも、ある“儀式”の準備を進めていた……。

優しさの奥に底知れぬ恐ろしさを秘めた里親ローラを演じるのは、『シェイプ・オブ・ウォーター』のサリー・ホーキンス。妹想いで繊細な兄アンディを演じるのは、国際エミー賞男優部門を最年少で受賞した経験のあるビリー・バラット。視覚障害を持つ妹パイパーを、自身も視覚障害者で演技初経験となるソラ・ウォンが演じている。
監督のお二人にインタビューを敢行。本作と前作との共通点や、サリー・ホーキンスの驚異的な役作り、必ず脳裏に焼き付くであろう“ナイフのシーン”の裏側などについて語ってもらった。

――『トーク・トゥ・ミー』に続いて、“死者との再会”や、そのための“儀式”といった要素が登場しますね。異なるアプローチでそれらを掘り下げようとしていたのでしょうか?
ダニー:そうそう。『トーク・トゥ・ミー』と『ブリング・ハー・バック』は同時に制作を進めていたんです。それでたくさんの共通点があって、それぞれが同じテーマを異なる角度からより深く掘り下げる形になった。そのとき僕たちが何を経験していたかが作品全体に色濃く反映されているんです。『トーク・トゥ・ミー』のときにも、『ブリング・ハー・バック』のときにも、大切な人を亡くす経験をした。結局のところ、どんな話を書くにしても、その時の自分の状況や経験というものが自然と脚本に滲み出てくるものなんだと思う。
――二作目の長編映画となりますが、前作での経験を踏まえて、クリエイティブ面でどんなことを意識していたのでしょうか?
マイケル:『トーク・トゥ・ミー』はすごくいい経験になったんだよね。サウンドミックスについてたくさんのことを学べたから、それを今回の映画に取り入れたかった。ドルビーアトモスなら、音をサラウンドに配置したり、天井に配置したりできるんですよ。今回の作品は円形のモチーフがキーになっているけど、サウンドデザインでもそれを表現しているんです。人々の周りを音がぐるぐると回り、天井から雨が降ってくるようにしたから、観客はまるで上から雨が降り注いでくるような感覚を味わえると思う。
ダニー:音楽についても、『トーク・トゥ・ミー』では選曲が後回しになっていて、本当にギリギリのところまで持ち越してしまっていた。だから『ブリング・ハー・バック』では最終草案を書いている最中に音楽の作曲を進めていたんです。完成した映画ではなく、脚本に基づいて音楽を作るという点も今回の重要なポイントになったと思う。

信頼できない“大人”の怖さ
――里親のローラは明るく愛情深く見える人物でありながら、ゾッとするような無神経さや攻撃性を秘めています。彼女のキャラクター造形においてヒントになったものはありますか? この人物像をどのように掘り下げていったのでしょうか。
ダニー:子供の頃に経験したことがベースになっているんです。大人や保護者であるはずの人物が、善意とは言い難い意図を抱いているのに気付くことがあって。そういうとき、子供はちょっと微妙な立場に置かれることになるよね。パイパーやアンディも同じなんです。大人の言うことを聞くべきなんだけれど、その相手には裏の意図がある。それは本当に恐ろしいことだと思う。だからこそ、この映画のテーマとしてしっくりきたし、ぜひとも掘り下げてみたかったんです。
マイケル:ローラは、悲劇が起こる前は愛情深い素敵な人だったんですよ。彼女は児童心理学者として学んだスキルがある。それを、子供を精神的に追い詰めて“壊す”ために使っているんです。アンディという人間を内側から崩していくために、そのスキルを悪用しているんですよね。

――ローラを演じたサリー・ホーキンスの怪演は凄まじかったですね。彼女はどのように役作りをしていたんでしょうか?
ダニー:もう~すごかったよ!(笑) 彼女はずっとローラになりきっていて、セットではローラの服装でずっと過ごしているし、ローラとして買い物に行ったり、ローラとして日記を書いていたり……。役をとにかく徹底的に掘り下げる、素晴らしいパフォーマーでした。撮影が終わったあと、毎日彼女から何千通ものテキストメッセージが届くんです。そこにはたくさんの質問や、その日の振り返り、自分の役柄の現在の立ち位置についての考察が書かれている。あんな関係性を築けることはこれまでになかったし、本当に最高の体験だった!
マイケル:僕たち二人は映画と映画にまつわるあらゆるものに夢中だから、サリーのように同じ情熱を持つ人に出会えたのがすごく嬉しかったんですよね。彼女の感性にどっぷりと浸かることができたしね。
ダニー:うんうん。今でも彼女と、友人としてメッセージのやり取りを続けていてすごくいい関係ですよ!
――パイパー役のソラ・ウォンは演技経験がなかったと知って驚きました。とてもそうは見えなかったです。オーディションで彼女の秘められた才能に気付いたのでしょうか?
マイケル:そう、オーディションで彼女がパイパーだと確信したんです。即興で演技をしてもらったんだけど、彼女に説明したのは「父親が死んでいるのを発見した時、兄が助けてくれなかった」という状況だけ。与えた指示はそれだけなに、彼女はすっかりその状況に完全に没入して、見事な演技を披露してくれたんです。その演技はめちゃくちゃ繊細で、リアルで、完全にホンモノだったんです。
ダニー:それに、彼女が演技に慣れていく過程も本当に素晴らしかった。最初はカメラを怖がってたんですよ。カメラの前で歌ったり、泣いたりするのが怖いって。でも撮影が終わる頃には声を張り上げて歌い、指示通りに泣いて、まるでハリウッドの俳優のようでした。最高な彼女と一緒に仕事ができて本当に良かった。

――オリバー役のジョナとアンディ役のビリーも素晴らしい存在感でした。彼らと仕事をした印象や、お二人から見た彼らの魅力について教えてください。
マイケル:ジョナは身体表現がめちゃくちゃ素晴らしいパフォーマーなんです。オーディションでやってもらったのはセリフのないシーンだったんだけど、彼はものすごく感情豊かな表現をしてくれた。ご両親が俳優で、役作りでもサポートをしてくれていたみたいですね。それと彼は実生活でキックボクサーでもあって、試合にも出場しているんです。だからこそハードな特殊メイクにも耐えられたし、スタントもこなせる身体能力の高さがあった。そしてビリーは繊細で素晴らしい俳優だと思う。彼が初めて演技をした時の年齢と、妹役のソラの年齢が同じだったこともあって、撮影中、実際に彼女のお兄さんのような存在として接していたんですよね。彼も共感力がある素晴らしいパフォーマーなんです。
ダニー:何年か前に『Responsible Child』(2019)という映画でビリーの演技を見て、その素晴らしさに圧倒されたんです。ずっと一緒に仕事がしたいと思っていたから、今回こうして実現できたのは本当に嬉しかった!
個人的な恐怖の反映

――オリバーがナイフを手にするあのシーンは観客の語り草となりそうですね。撮影時のエピソードはなにかありますか?
マイケル:(満面の笑み)
ダニー:ゴアなシーンを撮るのはいつだって最高に楽しいですね! あのシーンはやっぱり撮影していて一番面白いシーンだった。撮り方を何通りも試したんです。マイケルが買ってきた小道具用のスポンジ製のナイフを使ったり、頭部の模型を作ってそこに本物のナイフを突き刺して唇を切るような演出をしたり。こういうアイデアを考えるのが本当に楽しいんです。
マイケル:劇中で聞こえるあの音なんだけど……最初の効果音の段階ではどうもしっくりこなくて。結局、実際にナイフを口に入れて噛んでみたんです。そうしたらそれがやっぱり一番リアルだった。その音をそのまま映画に使ったから、皆さんが聞くことになるのは実際に僕がナイフをガジガジ噛んでる音だよ(笑)。
――作品においてご自身の個人的な恐怖が反映されている部分はありますか?
ダニー:そう、いつもそうなんだよね。ホラーというジャンルが世界中で共感を呼ぶ理由はまさにそこにあると思う。つまり、自分自身の個人的な“恐怖”を表現するということ。些細なことでもいいんです。例えば、ナイフや金属が歯に当たる感触や音を想像するだけで、僕はゾッとしたり、たまらなく嫌な気分になったする。そうした感覚を映画の中にうまく組み込んでいくのも一つの例だと思う。他にも色々あるけど、終わりのない悲しみの連鎖という概念も僕にとってはすごく恐ろしいこと。友人たちが、本当にトラウマになるような喪失を経験するのを目にしてきたから。結局のところ、自分が一番怖いと感じるものを表現する、ということに着地するんだと思う。

――ホラー映画が続いていますが、今後ホラーのサブジャンルで作ってみたいものは?
マイケル:ホラーじゃなくてゴメンだけど、いつかアクション映画を撮ってみたいっていう夢があるね!(笑) これは間違いなく「死ぬまでにやりたいことリスト」に入ってる。
ダニー:それとドキュメンタリーもリストに入れていたけど、実はつい最近一本作ったから、リストからは外れたね(笑)。
マイケル:ホラーだったらそうだな……アイコニックなモンスターを生み出したい! モンスター映画を自分なりの解釈で撮る、フレディ・クルーガーのようなキャラクターを自分で生み出す……そういうことに挑戦するのは、間違いなく「やりたいことリスト」に入っていますね!
『ブリング・ハー・バック』
7月10日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開












