ホラー通信

INTERVIEW 映画

ジョン・リスゴーの怪演が「本当に恐ろしい」 老人虐待描くスリラー『ジェニー・ペンはご機嫌ななめ』監督インタビュー

2026.06.11 by

『ジェニー・ペンはご機嫌ななめ』ポスター、ジェームズ・アッシュクロフト監督

ジェフリー・ラッシュ&ジョン・リスゴーW主演、老人たちが暮らすケアハウスを舞台にしたソリッド・サイコスリラー『ジェニー・ペンはご機嫌ななめ』(6月12日(金)公開)。

穏やかな生活が送れるはずだったケアハウスで待ち受けていたのは、人形を持った恐ろしい支配者だった……。判事という仕事を長年務め上げ、強い正義感と高いプライドを持つステファン・モーテンセン(ジェフリー・ラッシュ)。そんな彼も病には勝てず、ケアハウスへ入居し車椅子生活を送ることになる。体が言うことを聞かず、自分の人生がどの段階にあるかを痛感していくステファンだったが、脅威は“老い”だけではなかった。ジェニー・ペンと名付けたドールセラピー用の人形を手に、陰湿ないじめで老人たち支配する入居者のデイヴ・クリーリー(ジョン・リスゴー)がいたのだ。彼と敵対したステファンはやがていじめの標的になり、その戦いは人生最後の壮絶な死闘と化していく。

オーウェン・マーシャルの原作小説をもとに本作の脚本を書き上げ、監督を務めたのは新鋭ジェームズ・アッシュクロフト。俳優として長らく活動し、本作で監督としてその才能を世に知らしめることとなった。そんなアッシュクロフト監督にインタビューを行い、意外な出演作や本作の一番の“恐怖”、ジェニー・ペンのインスピレーションなどについて伺った。

ジェニー・ペンはご機嫌ななめ メイキング写真
メイキング写真:アッシュクロフト監督とジェフリー・ラッシュ

――アッシュクロフト監督は羊のホラー映画の『ブラックシープ』(06)に俳優として出演されているんですよね。

ジェームズ・アッシュクロフト監督:そうなんです。小さな役でしたけど本当に楽しい経験でしたよ。撮影は3日間の予定だったんですが、農場での撮影で雨が続いて2週間に延びたんです。私の役は最初に食べられてしまう科学者で、同じ演劇学校を卒業したばかりの仲間たちが他の科学者役を演じていたので、その長丁場がむしろ良い時間になりました。羊に食べられるのも楽しかったですしね(笑)。

――日本では知る人ぞ知る作品だったのですが、2020年にやっと劇場公開されてニッチな人気がある作品なのでお話を伺えてとても嬉しいです。

アッシュクロフト監督:それは素晴らしいですね! 『ジェニー・ペンはご機嫌ななめ』のスタッフの大半が私の次回作『When Darkness Loves Us』にも参加してくれているのですが、彼らはその直前に『ブラック・シープ』の続編の撮影をしていたんですよ。今年の後半くらいに公開されるんじゃないかな。

「ジョン・リスゴーの演技は本当に恐ろしいものになりました」

――楽しみにしています! 『ジェニー・ペンはご機嫌ななめ』にはジェフリー・ラッシュとジョン・リスゴーという大物二人が主演していますが、彼らにどのように本作を売り込んだのでしょうか。

アッシュクロフト監督:実はすごく簡単に決まったんですよ。何年も前に脚本を書き始めた当初から、この役にはジェフリーとジョンを想定していたんですが、まさか彼らを起用できるとは思ってもいませんでした。予算がそれほど大きくないプロジェクトだと、俳優たちに脚本を読んでもらえるまで何ヶ月もかかることだってあるんですけどね。

彼らのエージェントに連絡を取り、彼らを褒め称える手紙を書いたんです。彼らは数日で会うことを決めてくれました。ジョンは断るつもりだったみたいなんですが、直接会って私のアプローチを話すと承諾してくれました。ジェフリーとは会ってすぐに火が着いたように意気投合しました。私たちはみんな演劇のバックグラウンドを持っていたので、共通の言語を持っていて、相性がとてもよかったのだと思います。

――直接会って話したことが出演の決定打になったんですね。

アッシュクロフト監督:ジョンは特にこのプロジェクトに不安を感じていたようですからね。とても難しい役柄なので、作り手側の意図を理解して、十分な配慮がなされているか確認したかったのでしょう。ジェフリーの方も、ジョンが演じる役柄の難しさと、それがあまり楽しいものではないということも理解していました。どんなプロジェクトでも、最終的には人との人間関係や繋がりが重要です。直接会わずに脚本だけを読んで「イエス」と言う俳優には、むしろ警戒してしまうかもしれません。

――脚本はご自身で書かれていますが、実際に撮影してみて予想以上に恐ろしく感じたり、強く心が動かされたシーンはありますか。

アッシュクロフト監督:やはりクリーリー(ジョン・リスゴー)が人形を手にしているシーンでしょうね。彼がその瞬間を心から楽しんで有頂天になっているとき、それは本当に恐ろしいものになりました。監督として俳優のそうした仕事を見るのは素晴らしい経験ですが、振り返ってみるとあまりにも不穏で、ジョンの俳優としての力量を見せつけられた感じでしたね。

一方で、感動的な瞬間もたくさんありました。エキストラも含めて、すべての俳優が自分の人生を振り返り、とても感情的になっているのが感じられました。それはとても美しかった。この映画は人の尊厳を奪うような場面がとても多いんだけれど、俳優たちが勇気と威厳を持って演じてくれたのでそれがとても心に響きましたね。

――色んな怖さが描かれている作品ですが、アッシュクロフト監督にとって一番の恐怖というのはどんな点でしょうか。

アッシュクロフト監督:一つは自律性を失うことでしょうね。ケアハウスというものが存在する社会で暮らす人々には、過酷な経験が待ち受けています。自律性を奪われ、自分らしさを失い、自分の世界がごく狭い範囲に縮小されてしまう。かつての生活を捨て、より小さな生活へと移っていくのです。多くの人にとってそれは必要なことではあるんですけどね。

ただ個人的な最大の恐怖は、クリーリーのような独裁者になってしまうことです。多くの暴君は、必ずしも最初から暴君になろうとしているわけではないと思いますが、十分な資源や権限、状況が与えられれば、「絶対的な権力は絶対的に人を堕落させる」という古い格言が現実になることもあるのです。そして私たちの誰もがその誘惑から逃げおおせるとは思えません。私の妻は「あなたの心の奥底にはごく小さな独裁者が潜んでいる」と言うんですよ(笑)。その独裁者が、無制限の権力を行使する機会を与えられなければ、私たちの家庭の平穏は保たれることでしょう……。

ジェニー・ペンは昼は“調和の象徴”、夜は“拷問器具”

――クリーリーにとっての“ジェニー・ペン”という存在を、監督はどのように捉えていたんでしょうか。

アッシュクロフト監督:主な目的は、公の場における“仮面”でしょうね。ジェニー・ペンという存在があって、クリーリーはその背後に隠れているのです。彼は認知症という仮面も身につけています。小さな赤ちゃんの人形を持った認知症の老人を見て、人々は「従順で無害だ」と思うことでしょう。しかし夜になると、この人形を使う目的は大きく変わります。この人形を使って、どれだけ人々を恐怖に陥れ、虐待できるか。彼が頻繁に人形に向かって独り言を言うのは、恐怖を植え付ける手段で、一種の拷問器具のようなものです。

私はそうした二面性を感じさせるキャラクターや物語が大好きなんです。公の場では、穏やかさや調和、従順さの象徴。しかし扉の向こう側では、拷問器具になる。それはあの人形が作られた本来の目的とは正反対のものです。それはまさしく、クリーリーの倒錯した性質とサディズムを物語っていますよね。

――ジェニー・ペンの造形や劇中での見せ方、演出についてはどんなことを意識されていたんでしょうか。人形を扱ったホラー映画も多数ありますが、そうした作品はヒントになったのでしょうか?

アッシュクロフト監督:ジョンがジェニー・ペンを自分の分身のように演じられることを念頭に置いていました。人形はいくつか種類があって、ジョン自身が人形を操作する場面もあれば、パペッティア(人形使い)が操作する場面もありました。あるシーンでは私の半分くらいの大きさの人形もあったし、他の場面ではさらに大きな人形も登場します。一番興味深かったのは、ジョンが画面に映っていない時でさえ、人形を操ることに完全に没頭している姿を見ることでした。人形でありながら、あれは常にジョンそのものだったんです。

“アナベル”や“チャッキー”のようなホラー映画の人形についてはよく認識しているけれど、私たちは「怖い見た目の人形にはしない」という明確な方向性を持っていました。ごくありふれた、親しみやすいものを作りたかった。その存在が“何者か分からない”ほど、家庭的な雰囲気を帯びて、より不気味に映るからです。おそらく一番近いのは、リチャード・アッテンボロー監督の映画『マジック』でしょうね。あれは手品師の話だけど、あのタイプのデザインを意識していたんです。ただ怖い人形だけじゃ、そこから展開させることが難しいんです。ジェニー・ペンに関しては、眼球を取り除くことで、親しみやすい人形がグッと不可解なものになりました。何かが不可解なとき、つまりそれを本当には理解できないとき、そこに真の恐怖が生まれるのだと思います。

『ジェニー・ペンはご機嫌ななめ』
6月12日(金)よりロードショー

©2024 Hyenas Rule Ltd

キーワード: