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韓国とタイがタッグを組んだ、タイの祈祷師をめぐるホラー映画『女神の継承』が7月29日より公開される。
本作は元々、韓国ホラー『哭声/コクソン』(16)を監督したナ・ホンジンが、同作に登場する祈祷師イルグァンの生い立ちを描く続編として企画したものだった。それが“タイの祈祷師一族”というモチーフに変わり、『哭声/コクソン』とは別の、しかし同様にとてもダークな新作のホラー映画となった。ナ・ホンジンは原案・プロデュースを担当し、『心霊写真』『愛しのゴースト』のバンジョン・ピサンタナクーンが監督と脚本を兼任した。
タイ東北部イサーン地方の小さな村。祈祷師一族の血を引きながらも、普通の若者として日常を過ごしていた女性ミンが、原因不明の体調不良に見舞われ、次第に凶暴な人格へと変貌していく。ミンの叔母である祈祷師のニムは、「ミンが一族の後継者として選ばれて憑依されている」と推測するが、ミンは予想よりもはるかに強大なものに取り憑かれており、一族の運命は邪悪な方向へと突き進んでいく――。
Zoomインタビューに応じたバンジョン・ピサンタナクーン監督は、容赦のない恐怖をたっぷり詰め込んだ本作について、「最高に内容の“濃い”映画にして、観客の気持ちを刺激する映画にできるよう心がけました」と意気込みを語る。
監督の目を通して見た実際の“祈祷師”たち
[画像:『女神の継承』メイキング]
ストーリーは、ナ・ホンジンの原案の時点でかなり出来上がっていたようだ。「映画の70パーセントの構造は最初にいただいたものとほぼ同じ」と監督は言う。監督自ら、タイの祈祷師たちのもとを実際に訪れ、綿密な取材を行い、ディテールを整えていった。
「タイのイサーン地方には“全てのものに霊が宿っている”という迷信があるとか、祈祷師の儀式だとか、そういった詳細を加えていきました。イサーンだけではなく、北部にも他の地域にも調査に行きました。かなりの時間をかけて、たくさんの祈祷師たちに会ったんです。
個人的に、祈祷師というものをあんまり信じていなかったけれど、彼らに会って話を聞くうちに、結構ワクワクしました。まず彼らをじっくり観察してよく話を聞いて、そして“祈祷師の人生”というものをよく理解して、それを映画制作のインスピレーションにしました。
彼らが本物か偽物かっていうことは、誰も決められませんし、実際分からなかった。けれども、話を聞いていて思ったのが、祈祷師はコミュニティにおいて“精神科医”のような役割を果たしているんじゃないかということでした。例えば、人々が痛みを感じて病院に行っても、病気が治らないとする。でも、祈祷師に会って話をすることで、気分が良くなる。しかも治療費は100バーツ未満で、大してお金も取っていない。なので、祈祷師というのはコミュニティーの心のよりどころになっているのだと思いましたし、また、社会をより立体的に豊かにしているものだと思いました。そこに驚かされました」
モキュメンタリーの手法で新しくてワクワクできるものを考えた
本作は、祈祷師の生活に迫るモキュメンタリー(フェイクドキュメンタリー)の形をとり、劇中のカメラマンが撮影した映像で物語を映し出していく。モキュメンタリーやPOV(一人称視点)はホラージャンルで人気の手法だが、だからこそ監督は工夫をこらす必要があった。
「モキュメンタリーの形式で撮るようにと、ナ・ホンジンさんから指定されていたんです。この手法を使うことはとても面白いと思いましたが、それと同時にかなり心配でもありました。過去10年間、アメリカでは100本以上のPOV作品が作られていて、似たような作品が無数にあったんです。だから、その手法で新しくて良いもの、このジャンルでもまだワクワクできる作品にするにはどうすればいいかと考えました。
ただし、モキュメンタリーの参考作品というのはあえて避けました。むしろ普通のドキュメンタリーを参考にしたんです。マケドニアで養蜂をしている女性の『ハニーランド 永遠の谷』というドキュメンタリーがあって、これが参考になりました。この女性の人生がとても美しく描かれていて、ドキュメンタリーなのにフィクション映画のようだったんです。なので、ホラー映画でもこの手法で、1人の人間の人生を描きながら、途中からホラーに変化していく……しかも半分以降はフッテージを使って、という新しい手法に挑戦しました。『ハニーランド』にはまったく怖い描写はありませんが、強くインスピレーションを受けましたね」
“リアル”を追求したアドリブでの撮影
さらに、自然な演技を追求するために撮影にはアドリブを取り入れたという。本物の祈祷師のような風格を見せたニム役サワニー・ウトーンマ、邪悪に変貌するミン役を迫真の演技でみせたナリルヤ・グルモンコルペチといったキャスティングにもこだわった。
「キャストには、全体の構造と次のシーンで大体何が起こるかというのは知らせておくのですが、セリフを固定しませんでした。シーンの設定を与えて、あとはもう自由に喋ってもらったので、かなりアドリブのセリフが多いです。そうすることですごくリアルな気持ちを表現してもらいました。こういった演技というのは高い演技力が求められるので、舞台俳優で演技力の高い役者を選んでいます。
ニム役のサワニー・ウトーンマには、私が実際会って話してきた祈祷師の情報を教えて、それから動画も見てもらいました。実際の祈祷師には色んなタイプの人がいますが、ニムは大げさな感じじゃなく、嘘つきでもないので、そういったリクエストをして、そこに彼女自身が解釈を加えて演じてくれました」
「ミン役については、見つけるまでとても心配だったんです。20歳とまだ若い役なのに高い演技力が必要でした。そして、この役を演じるのはあまり有名な俳優ではダメだと思ったんです。ミン役のナリルヤ・グルモンコルペチはあまり世間に知られてない存在だったんですね。彼女のオーディションテープが送られてきた時に、とても難しいシーンが課題だったのですが、本当に演技がすごくて。そのテープを見た瞬間にやっと気が楽になりました。彼女に出会えてとてもラッキーでしたよ。
でも彼女、実はタイの有名なテレビ局の3チャンネルのドラマに出ていて主演だったんですけど、なぜかそのドラマは人気がなくて、誰も彼女の存在を知らなかったんです。なのでもしかしたら、どこかの祈祷師が私のところに彼女を送ってくれたのかなと思いました(笑)」
劇場の大きなスクリーンで観るのがとても合う作品
[画像:『女神の継承』メイキング]
監督に、『哭声/コクソン』と日本のホラー映画についての印象もうかがった。
「『哭声/コクソン』は、もうここ数年で久しぶりにワクワクして観たホラー映画でした。すごく謎めいていて、物語ははっきりといろんなことを示さない。その代わりに、ずっと観続けていたい、ずっと追いかけてきいたいと思わせるものでした。それに本当に怖かった。次の瞬間がこんなにも予測できない映画は観たことがないと思いました。もう正直に言ってマスターピースだと思いました。
日本の好きなホラー映画はたくさんあるんだけれども、特に好きな作品は『リング』(98/中田秀夫監督作)と『回路』(01/黒沢清監督作)です。“とても怖い”というのが1番の理由ですが、20年前に観た時に、ものすごく独自性があるなと、他の国の映画とは全く違うなと思いました。それ以前にアメリカのホラー映画の『エクソシスト』(73)など、たくさんのホラー映画を観ていたけれども、この日本のホラー映画は他の国とはまったく違う個性を持っていると思いました。観て、最後怖くて泣いちゃったほどです」
『女神の継承』が、日本で劇場公開されることについては、監督も「とても興奮しています」と喜びを示した。「この映画は、ストリーミングでしか公開されない国もありますが、なるべく劇場公開してほしいなと思っていました。劇場の大きなスクリーンで観るのが、とても合うと思うんです。日本には、元々ナ・ホンジンさんのファンもたくさんいらっしゃるでしょうけれども、タイ人の私と組んでまた違うテイストになったこの映画を楽しんでいただけると思いますよ」
『女神の継承』
7月29日(金) 全国ロードショー
原案・プロデュース:ナ・ホンジン『チェイサー』 『哭声/コクソン』
監督:バンジョン・ピサンタナクーン 『心霊写真』『愛しのゴースト』
キャスト:サワニー・ウトーンマ、ナリルヤ・グルモンコルペチ、シラニ・ヤンキッティカン