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米国カリフォルニア州及びフロリダ州にある「有名テーマパーク」内でゲリラ撮影をしたことで話題となったブラック・ファンタジー映画『エスケイプ・フロム・トゥモロー』。
7月19日にTOHOシネマズ日劇ほかで公開を迎えると、多くの劇場で1日1回の限定上映でありながら、複数回上映している他作品と肩を並べ、公開週末成績で全国ランキングTOP30に入るという快挙を記録。新宿シネマカリテ、角川シネマ有楽町ほか17館で追加上映が決定しています。
この映画、「某パークでのゲリラ撮影」という事だけで観たくなってしまいますが、逆に言うと出オチ感が強いのも否めません。が、2013年1月、サンダンス映画祭でプレミア上映されると、夢と魔法の国への独創的な旅を大胆不敵に描いた“最大の問題作”と評されたり、局地的に盛り上がっている事は確か。筆者が観た感想を率直に述べさせていただくと……、
「潔癖性は観ちゃダメ(涙)」
と、まず声を大にして言いたいですね。本作、ゲリラ撮影したと行っても『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』の様に主人公がビデオカメラまわして〜、POV形式で進んでいくわけではありません。主人公のジム(いろいろダメダメな平均的中年アメリカ人)と家族の姿や、パークの景色を、それなりに鮮明に撮影しています。なので、映画がスタートしてすぐに「デビュー作なのに、ゲリラ撮影なのになかなかキレイな映像だなあ」と感じました。
某テーマパークで起こった悪夢を描いたと聞くと、閉園後のパークで「さ〜て、何人生き残れるかな? ハハッ」なんて恐ろしい事が起こるんじゃないの? とワクワクしてしまいますが、『エスケイプ〜』ではそんな事は起こりません。基本的には大それた事は起こりません。いや、起こってるのか? どこまでがジムに起こった事が、どこまでがジムの妄想なのか、まるで「これ夢なんだよな」って気付きながらも起き上がる事の出来ない夢にどっぷりつかってる様な、そんな不快感が続きます。
そして、先ほど書いた「潔癖性うんぬん」なのですが、筆者は全く潔癖性では無いのですが、この映画の中にはぐぬぬとなる描写がいくつかありました。人気テーマパークならではのすれ違う、触れ合う人の多さ。それ故の病気や感染などの不安。スティーブン・ソダーバーグ監督のサスペンス『コンテイジョン』(2011)でも描かれていた様に、手についたウィルスが自分の体や顔にふれて、それで次第に……。『エスケイプ〜』ではこうした不潔への不安が主軸に描かれているわけでは無いですが、見えない恐怖が凄まじかったので、警鐘を鳴らしておきます。最後には某パークの清潔へのこだわりに感服するわけですが。
難解で、観たあとにスッキリ腹落ちする作品ではありませんが、その他にも「男ってバカだねえ、実にバカだねえ」など見所もたくさん。この夏、一番の怪作である事は間違いありませんので、どうぞお見知りおきを。
『エスケイプ・フロム・トゥモロー』ストーリー
いろいろダメダメな平均的中年アメリカ人のジムは二児のパパ。この途方もない未来からの脱出ゲームは、ある朝ジムが突然会社をクビになった時から始まっていた。なにかにつけてうるさい妻と、言うことを聞かない子供たちを連れて、魔法の城や妖精たち、ホワイト・プリンセスの待つあのステキなテーマパークへやってきたジム。夢と魔法の国での現実逃避を企てるジムがそこで目にするものは、黒いプリンセスが仕掛ける歪んだ幻想ワールド。楽しいはずの家族旅行はたちまちにして、妄想と奇妙な出来事に溢れたシュールな悪夢へと変貌する……。
夢が必ず叶うこの場所は、ジムの偉大なる妄想までをも叶えてしまうのだが……。