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「ジグソウ以上のキャラクターは生まれなかった」 『ソウX』監督が語る過去作の悔いと今作の“ジグソウ像”

2024.10.19 by

『ソウX』ケヴィン・グルタート監督インタビュー

ジェームズ・ワン監督と脚本リー・ワネルの黄金コンビが『ソウ』(04)を世に送り出してから早20年。記念すべきシリーズ10作目にして、かつてない方向性を打ち出した新作『ソウX』が公開中だ。

本シリーズでは、ガンで余命わずかなジョン・クレイマー(ジグソウ)が、命の尊さを訴えるために仕掛ける、参加者に生死を自分で選択させる“ゲーム”を描いてきた。

シリーズを簡単に振り返ると、ジョンは『ソウ3』(06)で亡くなるが、以降の作品では彼のレガシーを引き継ぐ協力者によるゲームや、知られざる過去の出来事が描かれていく。7作目にあたる『ソウ ザ・ファイナル』(10)でシリーズは一度終了するものの、過去作と似た傾向の8作目『ジグソウ ソウ・レガシー』(17)が作られ、“ジグソウ”なしで仕切り直しを試みた9作目『スパイラル:ソウ オールリセット』(21)も登場した。ファンとしては『ソウ』の新作と聞けば楽しみにはなるものの、少々迷走気味な傾向も感じるところである。

そこで新作『ソウX』ではこれまでにない手法が取られた。ジョン・クレイマーがまだ生きている頃に時間を巻き戻し、『ソウ』と『ソウ2』(05)の間にジョンが行っていたゲームを描くのだ。ジョンはメキシコで医療詐欺に遭い、詐欺に加担した人々にゲームを仕掛ける。ジョンを主人公に据えるのは、シリーズでも初めての試みだ。

今作で監督を務めたのは、編集マンとして1作目からシリーズに携わり、『ソウ6』(09)や『ソウ ザ・ファイナル』を監督したケヴィン・グルタート。彼にオンラインでインタビューを行い、シリーズの迷走に対する率直な想いなどについて伺った。彼が軌道修正したかったジグソウの人物像、シリーズの見どころでもある“トラップ”考案の難しさなどについても語ってくれている。※『ソウX』に関するネタバレなし

ケヴィン・グルタート監督 インタビュー


ケヴィン・グルタート監督

――ジョン・クレイマーが初めて主人公になっている作品で、それがすごく新鮮で驚いたんですが、監督としてはこの脚本を受け取った時はどんな印象だったのですか? ジョン役のトビン・ベルの反応はいかがでしたか?

ケヴィン・グルタート監督:これまでにないくらいワクワクしましたよ。前2作の映画では、ジョンが端役だったりまったく出てこなかったりしましたからね。早い段階で設定は聞いていたんだけれど、それがどう成立するのかイメージできていなかった。出来上がった脚本を読んでみたら、シンプルなんだけれども、すごく効いているパワフルなアイデアだなと思いました。

トビンも今回の脚本をすごく気に入っていました。5年くらい前に同じ脚本家たちが作ったドラフトを読んでいたんだけど、それがあんまり気に入っていなくて、だから(ジグソウ不在の)『スパイラル:ソウ オールリセット』を作ることになった。そのあとでまた『ソウX』の脚本が練り直されたんです。

「ジグソウはもう死んでいるのに、一体どれだけのことが続くんでしょう?」

――監督が感銘を受けたのは、ジョン・クレイマーの目線で物語が進み、彼に感情移入する形で彼の仕掛けるゲームを見るという視点の部分でしょうか?

グルタート監督:それもありますし、ジョンが存命している頃まで時を巻き戻すというアイデアがすごくいいと思っています。ジョンが『ソウ3』で死んで以降、彼を登場させる時にはフラッシュバックや回想シーンで登場させるしかなくなってしまった。でも、こういう描き方の作品が何本も続いていくのってちょっとバカバカしいじゃないですか? 彼はもう死んでいるのに、一体どれだけのことが続くんでしょう?

今作のストーリーだけを見ると、主人公の旅路を描く伝統的な物語になっています。ジョンは奇妙な土地・メキシコを旅していて、自分の人生を救おうとしている。そして、過去作のジョンには見られなかった、“希望”という感情が初めて描かれているんです。そこは我々一般人にも感情移入できるポイントになっていますよね。いつものホラー要素が出てくるまで少し時間がある作りになっていて、そこまではジョンの感情と観客の感情が交わるようになっている。

その時間が終わるのが、ジョンが“騙された”と気付く一幕の終わりなんだけれど、この時のトビンの演技が本当にパワフルで素晴らしくて、ちょっと泣きそうになってしまうんですよね。


初登場キャラクターのセシリア

――トビン・ベルがジョンを演じる上で、彼から意見が出ることはあるのでしょうか?

グルタート監督:ジョンのセリフは、一番このキャラクターを理解しているトビン自身が毎回リライトするんです。今回の脚本に関しても彼はたくさん意見を出してくれています。アマンダ役のショウニー(・スミス)や、今回初めて登場するセシリア役のシヌーヴ(・マコディ・ルンド)とも、会話シーンについてかなり話し合っていましたね。映画の終盤、ジョンがセシリアの髪をぐっと掴んで引き寄せるシーンがあるけれど、あれは彼のアイデアです。“ジグソウ”と一緒にいるときは、決して油断してはいけないということを象徴している場面ですよね。

「まるで教祖みたいな」ジグソウ像の軌道修正

――ジョンが亡くなり、7作目でストーリーも完結して以降、さらにこのシリーズを続けるのにどんな道があるのか模索しているようでしたが、グルタート監督としてはこの状況をどう見ていたのでしょうか。

グルタート監督:ジョンが死んでしまう『ソウ3』を作ったとき、このシリーズは3部作として完結するはずだったんです。でもその3がヒットしすぎて、“もっと作ろう”という話になってしまった。そうすると、もちろんジグソウ以外の既存のキャラクターや新しいキャラクターで作っていかなければいけないんだけれども、これがやっぱりすごく難しい作業だったんです。新しいキャラクターがジョン・クレイマーのように面白い人物だと観客に思わせなければならなかったけれど、正直なところ、私たちはそれを成し遂げることができなかった

ホフマン刑事やゴードン医師などといったキャラクターは、キャストたちが素晴らしい演技をしてくれたし、僕は大好きだけれど、どうしてもジョンのジグソウには敵わなかったんです。あえて言うならアンソニー・ホプキンスなしで『羊たちの沈黙』を作ろうとしたようなものかもしれません。だからこそ、時間を巻き戻してジョンを復活させたのは本当に素晴らしいアイデアだと思うわけです。『ソウ11』が実現するなら、同じようなことをするかもしれません。

グルタート監督:そして僕自身は1作目と2作目のジグソウがすごく好きだったんですよ。かなり怒りに燃えていて、話し方だけでも“クレイジーで危険な人物だ”と感じさせる存在です。それが(『ソウ3』以降に)フラッシュバックで登場し始めると、まるで教祖みたいな、哲学やエセ宗教の指導者みたいな感じになってしまって。それが僕はあまり好きではなかったんです。

だからもし自分が監督できるなら、初期のようなジョンを描きたいと思っていました。結果的に今回の作品では、初期と後期のどちらとも違うジョンを描くことができたと思います。作品の前半のジョンはあまり“怒り”を感じさせる存在ではなく、観客がシンパシーを感じるような存在です。彼のレガシーを誰が引き継ぐのかといった要素も入れる必要がなくて、そこも良かった。彼の人間的な側面にフォーカスして物語を描けるというのが自分でも意外だったし、掘り下げることが楽しかった。今作でも最後の方には“怒り”も見えてくるんだけど、それがちゃんとコントロールされているんですよね。

ジグソウのルールに則った“トラップ作り”の難しさ


ポスターにも採用された“目玉吸い出しトラップ”

――毎回、ジグソウの仕掛けるゲームとトラップがすごくユニークで驚かされるんですが、脚本家がストーリーとともに考えるのですか? どのように作り上げていくのでしょうか。

グルタート監督:毎回異なっていて、基本的には脚本の段階で書かれてはいるんですが、撮影が始まったら少なくとも1~3つくらいはトラップを考え直すことになります。今回の場合だと、最初の方に用務員が仕掛けられるトラップがありますが、あれは脚本にはなかったものです。私とプロダクションデザイナーと脚本家が「このあたりにもう1つトラップがあったらいいね」と言って生まれたのがあれだった(笑)。結局それがポスターにも使われましたね。

映画の終盤に登場するトラップも脚本ではかなり異なっていました。電気を使ったり水中シーンのあるものとして書かれていたんだけど、撮影が難しいので、アイデアを出して変更したんです。スタントマンやプロダクションデザイナー、カメラマンたちとチームを組み、トラップをうまく機能させるためのアイデアを毎度話し合うのです。

――トラップは観客の大きな楽しみどころだと思うんですが、作る側としてはいかがでしょうか。作る楽しさはありますか?

グルタート監督:楽しいけれど、ものすごく大変な作業です。私たちは部屋に集まって、これまでにやっていない“人を殺す様々な方法”について(笑)、多くの時間を費やして話し合います。シリーズのこの時点で80個くらいのトラップがあるんですが、同じことを繰り返したくないので簡単なことではありません。

そして問題は、単に“ホラー映画におけるクールな殺人方法”を考えるのではダメだということです。なぜなら、ジグソウのルールに従わなければならないから。生き残ることが可能でなくてはならないし、トラップのテーマはその人物が行った悪事や本人が抱えている問題に沿っている必要があります。メタファーになっていないといけないんですね。さらにそれが、予算内で物理的に実現できなければならない。ですから、本当に本当に挑戦的なことです。さらに、それをリアルに演じられる俳優を見つけることも、とても難しいことなんですよ。

『ソウ X』
TOHO シネマズ日比谷ほかにて公開中

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