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ベストセラー作家の乙一が、本名の安達寛高名義で監督・脚本を手掛けるオリジナルホラー映画『シライサン』が1/10よりいよいよ公開。
眼球破裂と突然の心不全という奇妙な死因で親友を亡くした主人公・瑞紀は、同じ死因で弟を亡くした春男と出会い、共に事件の真相を調べるうちに、“シライサン”という言葉に突き当たる。“シライサン”はその名を知るだけで呪われるという恐ろしい存在。彼女がもし目の前に現れたら、決して目をそらしてはいけないという――。
中田秀夫監督が手掛けた『リング』と、“貞子”という強力なアイコンが君臨しているJホラージャンル。そこへ、“シライサン”という新たなホラーキャラクターで挑んだ安達監督にお話を伺った。
――自主制作を含めて、ホラー映画を撮るのは初めてですか? ホラーを文章ではなく映像として作り込んだ感想はいかがですか。
安達監督:ホラーを撮るのは二度目なんです。とはいえ、自主制作でも毎回、幽霊や死体が出てくる短編映画を撮っていました。『シライサン』ではJホラー的な雰囲気を出したいなと思っていたんですけど、なかなか他の方のようにできなくて……。Jホラーの監督さんは本当にすごいセンスを持っているんだなと改めて思いました。「怖かった」と言ってもらえても、まだ感想を額面通りに受け取れないんですよね。「ほんと~?」という感じで。照れくささというより、どちらかというと不安のほうが大きい。「もっとこうしておけばよかったな」みたいな反省点ばかり目についてしまいますね。
――ホラー映画はもともとお好きなのでしょうか。
安逹監督:元々好きでよく観ていましたね。好きなのは『悪魔のいけにえ』や黒沢清監督の『回路』、ホラーに入れていいかは分からないけど、『羊たちの沈黙』も。『悪魔のいけにえ』は、心象風景というか、自分の中の“懐かしい場所”みたいなところに入っているんですよね。子供の頃は怖いだけだったけど、大人になって観るとレザーフェイスの目にグッと来るところがあります。特別な感じがあるんですよね。日本のホラーを選ぶなら、『回路』か『リング』かで迷うところではあるんですけど、黒沢監督のセンスが好きで。幽霊が忍び寄ってくる感じ、おばけが出ていない場面でもなんだか怖く感じる、『回路』はそういう特別な感じがありますね。『羊たちの沈黙』は、物語自体がすごく好き。レクター博士とクラリスの交流、ミステリーじかけなところとか。生涯ベスト級に好きですね。
――小説でもホラー的な要素のあるお話を書かれていますが、安逹監督にとってホラーの魅力とはなんでしょうか。
安逹監督:なんだろう、死を身近に感じるのがいいですよね。実際に人が死ぬ話だけじゃなく、ちょっとゾッとする瞬間に、現実の認識が剥がれるというか。そのトリップ感が味わいたくなって、ネットで怖い話を読んだりもしますし。『シライサン』に出てくる、拍手が合掌として写真に写ってしまう怖い話も、たしか2ちゃんねるで読んだものを作り変えたんです。元々はマラソン大会で写真を撮ったら拍手がそう写ってしまった、というようなものだったと思います。年に何回か、そういう怖い話を読みたくなる時がありますね。
――“シライサン”のアイデアはどういった経緯で生まれたのでしょうか。
安逹監督:この映画を企画した武内健さんと、どんな映画だったら出資を集めやすいかという話をしたときに、『リング』や『呪怨』のような、呪いが次々と人を殺していくような話だったら常に需要があるだろう、ということになって。そこで色んなオバケのアイデアを考えたんですが、そのなかのひとつが“目をそらしたら死ぬオバケ”だったんです。
――“名前を知ると呪われる”という設定は?
安逹監督:どうしたら呪いが伝播していくだろうかと考えたんですが、『リング』の“ビデオを見たら呪われる”というアイデアがすごすぎて……。それと差別化しながら、どんなものだったらあり得るか考えていった結果、「シライサンにまつわる怖い話を聞いたら呪われるようにしよう」と。ただ、脚本を書いていくなかで、詠子(シライサンの呪いを知る登場人物)が、相手が呪われることになると知っているのにその話を語るだろうか、という問題があった。そこで、“シライサン”の名前を言わずにその話を語って――という流れにしたんです。結果的に、“名前を知ると呪われるシライサン”という設定が出来上がりました。
――“シライサン”はそのビジュアルも特徴的でした。アイデアを練る上でホラー映画は研究しましたか?
安逹監督:『リング』や『呪怨』は研究しましたね。『リング』の貞子みたいに顔が見えないほうが怖いんじゃないかと思ったんですが、今回“見る・見られる”ということがテーマの一つだったので、「目は出すべきじゃないか」という意見があって、逆に目を大きくしたらどうだろうと。ネットで見た、目を大きく加工しすぎて怖くなっている写真もインスピレーションになって、“目の大きな女”という設定が固まっていったんです。それと『ジェーン・ドウの解剖』という映画で、死体の足に鈴がついてるんですが、あの鈴を“シライサン”に持ってこよう、と。
――『シライサン』はベーシックなJホラーのように見えて、要所要所で入る冷静な視点がユニークですよね。観客が心の中でツッコむような内容がセリフとして出てくる。これは安逹監督自身の視点が反映されているのですか。
安逹監督:完全に僕の視点だと思いますね(笑)。あまりホラー映画らしくしすぎるより、ホラーというジャンルを一歩引いて見ている感じを出したいなと思って。カットするか迷ったところもいくつかあるんですけど、そういうところで他のJホラーと差別化できるんじゃないかという想いがあったんですよね。
――呪いへの対処方法もすごく冷静な視点によるものですよね。
安逹監督:話を作るときに、一番面白いJホラーの成功モデルとして『リング』があって。普通に話を作っていくと、呪いの根源を知ることで呪いが解除される、という展開がベーシックなんですけど。それとは違う終わり方ってどんなのがあるかと考えた結果、ああいう形で呪いに打ち勝つというのはどうだろうと。そこで、主人公は冷静な視点を持っている、変わった視点で何かに気付ける人、というキャラクターにしました。「あんまりやられていないことをやらなきゃいけないなぁ」と思って、それで苦しみました。そういう意味でも『リング』という“呪い”があって、そこから逃れるのが大変でしたね。
終始謙虚な姿勢で質問に答えてくれ、反省点はあるとしつつも今後もホラー映画を撮りたいと語ってくれた安逹監督。他の映画にはないユニークな視点でJホラー界に新たな息吹を吹き込んでくれそうだ。まずは『シライサン』で、その安逹テイストをご堪能あれ。
『シライサン』
1月10日より全国ロードショー
https://shiraisan.jp/