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<特集>モンスターは自分と同じ顔をしている ジョーダン・ピール監督が描くドッペルゲンガー・ホラー『アス』

2020.02.21 by

この記事は1年以上前に掲載されたものです。


『ゲット・アウト』で注目を集めたジョーダン・ピール監督が、“ドッペルゲンガー”を題材に描く最新作『アス』。2/21にいよいよブルーレイ&DVDでリリースです。

ジョーダン・ピール節の確立! ピール監督の前作『ゲット・アウト』

ところで、ジョーダン・ピールが監督・脚本を手掛けた前作『ゲット・アウト』、ご覧になりました? 「差別されるのではないか」と不安に思いながら白人恋人の実家を訪問した黒人青年の、文字通り“想像を絶する”恐怖体験を描いた『ゲット・アウト』。先入観を巧みに利用した衝撃のブッ飛び展開で度肝を抜きました。いや~、まさかあんな展開になるとはね……。全編に散りばめられた不穏な要素がすべて伏線になっているのもポイントで、二度目に観ると印象がガラリと変わります。アメリカに根強く残る人種問題を恐ろしくもユーモラスに風刺した本作で、ジョーダン・ピールはアカデミー賞脚本賞を受賞しました。

ブッ飛んだアイデアでの社会風刺、恐怖とユーモア、散りばめられた伏線と暗喩。『ゲット・アウト』で見せたジョーダン・ピールのそんな作家性が、続く『アス』でも存分に発揮されています。

今度の題材は“ドッペルゲンガーの恐怖”

ピール監督のなかで『ゲット・アウト』の完成前から頭にあったというアイデア。それは、“自分そっくりな分身”=ドッペルゲンガーを映画にすること。神話や映画などで古くから語られてきたドッペルゲンガーという題材に強く惹かれていたそう。自分とドッペルゲンガーの両方が存在することはできない、どちらかが消えなければいけないという“死の必然性”の恐怖――ピール監督は、それを自分なりの解釈で映画にしたかったと言います。「“最大の敵は自分”という着想に惹かれたよ。私たちは常に物事を部外者や他人の責任にしたがる。だが、この映画ではモンスターは自分と同じ顔をしているんだ

ジョーダン・ピール監督作『アス』場面写真

主人公は、幼少期に原因不明のトラウマを抱えたアデレード。夏休みを過ごすため、夫のゲイブ、娘のゾーラ、息子のジェイソンとともに、因縁深い故郷のサンタクルーズへと帰ることになります。友人夫婦と合流し、ビーチへ出掛けて夏休みを謳歌しますが、いくつもの不気味な偶然が重なったことで、アデレードは「家族の身に恐ろしいことが起こる」という妄想にとりつかれていきます。その夜、アデレードたちの過ごす家に“自分たちにそっくりなわたしたち”が現れ、アデレードの妄想は現実と化すのです。

突如始まったドッペルゲンガーの襲撃。アデレードたちは身を守るため、自分と同じ顔をした彼らと戦わねばならなくなります。彼らはどこからやってきて、何をしようとしているのか? そこには驚愕の真相があったのです。

ジョーダン・ピール監督作『アス』場面写真

ルピタ・ニョンゴ怪演! 動きのモデルは“ゴキブリ”


アデレードとそのドッペルゲンガーである“レッド”を演じるのは、『それでも夜は明ける』でアカデミー賞受賞経験もあるルピタ・ニョンゴです。頼れる母であろうとしながらも大きな不安に揺さぶられ、弱さを垣間見せるアデレードと、表情・仕草そして声までゾッとするほど不気味で、野生動物のように攻撃的なレッド。顔こそ同じものの、まったく性質の異なる二人を見事に演じ分けています。

レッドの奇妙なまでに抑揚のある独特の動きは、ピール監督から出た“ゴキブリ”というキーワードが大きなヒントになったそう。素早く逃げることもでき、静かに隠れもする。そして強靭な生命力を持つと同時に、人間に忌み嫌われ、目を背けたくなるゴキブリの存在は、本作におけるドッペルゲンガーの性質にかなり近いものと言えるでしょう。

何も知らずに観ても面白く、意味を知ると更に恐ろしい

ジョーダン・ピール監督作『アス』場面写真

ホラー映画というものは往々にして、恐怖の渦中にある登場人物を安全な場所から眺めてスリルを味わうもの。ですが、本作は単なるホラー映画として観ても楽しむことができる一方、全編に散りばめられた暗喩を紐解くことで、決して他人事ではない“現実に根ざした恐怖”がさらけ出されるように作られています。

『ゲット・アウト』で人種問題を取り入れたように、ピール監督は本作でも社会や人間個人の問題を風刺しています。ですが、決して説教臭くなることはありません。「あれはなんだったのだろうか?」と、つい意味を知りたくなるような暗喩として散りばめることで、観客が自然と興味を持つように仕向けているのが秀逸なところ。映画の娯楽性を失わずに、ピール監督のメッセージが伝わるようになっているのです。本作に込められた意味は、町山智浩さんによる解説が非常に分かりやすいですが、必ず本編を観てからお読みくださいね!

原題『Us』に、ピール監督は“us=わたしたち”と“US=アメリカ”という意味を込め、自国アメリカの現状を皮肉っています。しかし、本作の描いた深層のテーマを知れば、アメリカに限らず、わたしたち個人の問題をも描いていることが分かるはず。最後に、ピール監督のこの言葉をご紹介しておきましょう。

「構想の段階で“自分にとって最大の恐怖とは?”と自問し、“自分自身の姿を見ること”だと気付いた。それから、“なぜ自分の姿を見るのが怖いのか”を考えていくうちに、“自身の過ちや罪や悪魔の部分を誰も直視したくないからだ”という結論に達したんだ。人間は自分のことからは目を背けたいからね


『アス』
2020年2月21日(金)ブルーレイ&DVDリリース
発売・販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント

<『恐怖の館』特設サイト>
https://nbcuni-cp.jp/kyofunoyakata/

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