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『ラストナイト・イン・ソーホー』エドガー・ライト監督インタビュー 「予習はいらないけど、掘り下げて観る作品が沢山ある映画を作りたい」

2021.12.10 by

この記事は1年以上前に掲載されたものです。

『ショーン・オブ・ザ・デッド』『ベイビー・ドライバー』のエドガー・ライト監督が、60年代のロンドン・ソーホーから着想を得て作り上げたサイコホラー『ラストナイト・イン・ソーホー』が12/10より公開。ライト監督がZOOMインタビューに応じてくれた。

膨大な映画から得たインスピレーションを盛り込み、ジャンルを軽やかに横断して映画を作るライト監督。映画好きが観ればその引用元を察して楽しむことも出来るが、コアな層に向けて作品を作っているわけではないのは、キャッチーな作風を見れば明らかだ。「僕の映画を観るのに“予習”は必要ない」と監督は言う。

エドガー・ライト監督:「基本的に、他の映画や同じジャンルの映画を観たことがなくても、楽しめる作品にしたいなと思っています。例えば今回の『ラストナイト・イン・ソーホー』が初めて観るホラー映画だという人がいたら、すごく素敵だと思う。ファンの方に「今回の映画を観る前に予習として何を観ればいいですか?」と聞かれることがあるけれど、予習はいりません。むしろ、僕の作品が面白かったら、その先に観るものがたくさんあるよという位置づけの映画になると嬉しいんです。自分自身がそうだったんですよね。面白い作品に出会ったことで、そこから他の作品を探求していくことにつながった。そういう道のりって、ジャンル映画やホラー映画から始まることが多いですよね。僕はイングマール・ベルイマン監督の映画を観たのは『処女の泉』(1960)が初めてなんだけど、それはウェス・クレイヴン監督の『鮮血の美学』(1972)が『処女の泉』のリメイクだって聞いたからだし(笑)」

ゾンビ映画ジャンルへの愛を込めたゾンビコメディ映画『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004)が、ホラー映画ファンにとどまらず人気を博したライト監督。その後クエンティン・タランティーノとロバート・ロドリゲスのグラインドハウス企画で、ホラーのフェイク予告編『Don’t』を手掛けているものの、れっきとしたホラー映画は今回が初めてだ。

ライト監督:「ホラー映画はずっとやりたかったことのひとつでした。自分のやりたいテーマをずっと探していて、そうして見つけたのが今回の“ソーホー”だったというわけです。自分の大好きなジャンルを、お決まりのやり方とは違ったやり方で作る、自分が思い入れのあるテーマで作る、そういった作品が作りたいと思っていました

描かれるのは、ロンドンのソーホーという場所で、別々の時代を生きる二人の女性の物語だ。主人公は、ファッションデザイナーを目指す現代の女性エロイーズ(トーマシン・マッケンジー)。田舎町から大都会ロンドンへとやってきた彼女は、夢の中で60年代のロンドンにタイムリープする。そこで歌手を目指すサンディという女性(アニャ・テイラー=ジョイ)を見つけ、身も心も彼女とシンクロしていくのだが、ある日サンディが何者かに殺されてしまう。60年代に実在したかもしれないサンディを案じ、エロイーズは現代で犯人を探そうとする――。

美しい女性が殺される凄惨な事件と、その犯人をめぐるミステリー。昔のホラー映画によくある題材だが、女性が殺される様がひとつの見どころとなっている過去の作品と本作とでは、趣が大きく異なる。むしろ、女性の恐怖に親身に寄り添うまなざしを感じさせるのだ。ホラー映画らしからぬ視点、と言えば言いすぎかも知れないが、新鮮なのは確か。「まさにそれがやりたかったこと」とライト監督は言う。

ライト監督:「昔の映画は好きなんだけれど、『サイコ』(1960)しかり『殺しのドレス』(1980)しかり、“いま”の感覚からすると問題のあるプロットが多いですよね。マリオ・バーヴァの『モデル連続殺人!』(1963)なんかは、うまくひねっているから成立しているし、風刺として観ることができるけれど。殺されていく女性たちがイタリア版ヴォーグのグラビアみたいになっていたりね(笑)。それでうまく逃げおおせていても、今観るとやっぱり少し辛い。時代によって受け入れられない要素というものは必ずあって、ならば、逆にそれをひねって映画を作ったらどうだろうか、と考えた。昔の映画の中で起こるようなモチーフを使いながら、観客が予想しない場所に着地させるんです。過去の映画で描かれることに対して、批判的というわけではないけれど客観的な目を持った作品にしたかった。

60年代のホラー映画やドラマもそうなんですが、スターを夢見る少女がいて、夢を持っていたがために、街や男たちに罰せられるような物語って意外と多かったんです。それもひねって取り入れています。現代の若い女性が、夢を抱いてロンドンに行くけれど、60年代で同じように夢を持っていた若い女性にシンクロして、彼女が経験したことを経験し、ロンドンのダークな一面を見る――色んな要素を組み合わせて、本作のそんな構造ができあがっていったんです」

主演二人のキャスティングも魅力だ。今年公開の『オールド』でも存在感を放っていたトーマシン・マッケンジーが現代の女性エロイーズをフレッシュに好演。様々なホラー・スリラーに出演し、現在はジャンルを問わず大ブレイクしているアニャ・テイラー=ジョイが60年代の女性サンディを魅惑的かつミステリアスに演じる。ライト監督がアニャ・テイラー=ジョイの起用を決めたのは、彼女の初主演作で、ロバート・エガース監督のデビュー作でもあるホラー映画『ウィッチ』を観たときのことだったという。当初アニャには、エロイーズ役を想定していたのだそうだ。

ライト監督:「サンダンス映画祭の審査員をしていたので、『ウィッチ』は初めての上映を観たんじゃないかなと思います。エガース監督には、最優秀監督賞を贈りましたね。アニャは本当に素晴らしいと思いました。表現の力、共感力みたいなものを持っているんです。あとは、セリフがないなかでも、彼女の顔を見ているだけで没入させてくれるような資質を持っている。きっとサイレント映画でも素晴らしい俳優になったと思いますね。

彼女と初めて会ったのは2015年で、脚本ができあがるまでそこから3年くらいかかったんです。その間に『スプリット』や『サラブレッド』の彼女を観ていたんだけど、エロイーズのような役でもあったので、違う役のほうが面白いかなと思い、サンディ役になったのです」

初めてのホラー映画で、紛うことなき傑作を作り上げたライト監督。ホラー映画愛の原体験を伺ってみると、その思い出は幼少期にさかのぼった。

ライト監督:「ホラー映画が好きになった入り口は、おかしなことに、ホラー映画そのものではないんですよね。兄がいるんですが、僕が3歳くらいの頃から、両親が僕たち兄弟を『スター・ウォーズ』『スーパーマン』『レイダース/失われたアーク』なんかを観に連れて行ってくれていました。6歳くらいの頃には、「STARBURST(スターバースト)」というSF・ホラー・ファンタジーの雑誌を買ってくれるようになったんです。読んでいると、年齢的にはまだ観られない映画――『エイリアン』『狼男アメリカン』『遊星からの物体X』なんかが載っていて、興味をそそられたのを覚えていますよ!

10歳くらいのころにテレビで『狼男アメリカン』(1981)がやっていて、親が観させてくれたんだけど、途中で「怖くなってきたからもう寝なさい」と言われてしまって。半分しか観られなかったけれど、18歳以上しか観られないレーティングの映画を観たのはあれが初めてだったんじゃないかな。ビデオデッキがなかったので、基本的には、両親が留守のときにテレビでかかっているものを観ることしかできなかったんです。兄の友達の家ではよく映画を観させてもらいましたね。カーテンをしめきって、『キャリー』や『エルム街の悪夢』を観たりしていました。それが僕のホラー映画の原体験ですね」

『ラストナイト・イン・ソーホー』
12月10日(金)、TOHO シネマズ日比谷、渋谷シネクイントほか全国公開
配給:パルコ ユニバーサル映画

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