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“ムカデ人間の先頭”北村昭博、『ムカデ人間』ビギナーを歓迎 「怖がらずに観に来て」「一生忘れられない濃い映画体験になる」

2026.08.20 by

オランダの鬼才トム・シックス監督が手掛けた『ムカデ人間』が美しくクリアに4Kリマスターされ、8月21日(金)よりリバイバル上映。ムカデ人間の先頭・カツロー役を演じた北村昭博さんがインタビューに応じてくれた。

日本公開から15年。複数の人間の肛門と口を縫い合わせてひとつの生命体を創造するという異常な映画ながら、一部の観客に熱狂的に支持され、愛され続けている本作。日本での人気の大きな要因とも言えるのが、劇中で唯一の日本人であるカツローの存在だ。ムカデ人間創造を夢見るドイツの外科医・ハイター博士(ディーター・ラーザー)に誘拐され、“ムカデ人間の先頭”にされるカツローは、言語の壁を意に介さず日本語で怒りと不満をまくしたてる。北村さんがアドリブで発したセリフの数々は劇場で笑いを巻き起こし、暗く絶望的な物語であるはずの本作を唯一無二の映画に押し上げた。

アメリカ・ロサンゼルス在住の北村さんがこのたび来日。『ムカデ人間 4K』の公開に際して各地で舞台挨拶に立つ予定だ。そんな北村さんに、当時の思い出や、初めて『ムカデ人間』を観るムカデビギナーへの想いを伺った。


来日した北村昭博さん 頼もしい笑顔はさすがムカデリーダー

――『ムカデ人間』を改めて観返したんですが、なんとも気が滅入るストーリーのなかで、あれだけ大騒ぎしてくれるカツローの存在は本当に大きいなと思いました。

北村昭博(以下、北村):エネルギーがありますよね。ホラー映画にいないタイプのキャラクターで、そういう意味で楽しい映画にもなってると思う(笑)。僕も大好きなキャラクターの一人だけど、今やろうと思ってもできないですね。あの当時の若さのエネルギーっていうのはなかなか出せるものではないなと。


ハイター博士への鬱憤をためるカツロー

“人間の尊厳”について考えさせられた

――ハイター博士に出されたご飯をカツローが素直に食べてしまったことで、のちの「ごめんよう」(謝罪しながらの排泄)につながるわけですけど、あれはなんで食べちゃうんですか……?

北村:確かにそうですね(笑)。当時はまったくそんなことを考えてなくて、ただ“腹が減ったから食う!”って感じで、ドッグフードでも構わず犬みたいに食べてしまうという。めちゃくちゃマズかったので、その時点で人間の尊厳について考えさせられましたけどね。あれを食べたあとカツローがハイター博士の足を噛んで、それで博士にサッカーボールキックをされるんですけど、そのときに博士役のディーターさんの足が僕の鼻先をかすめて、めちゃくちゃ大喧嘩になったんですよ。そんな思い出がたくさんありますね。

――劇中の関係性そのものですね。

北村:そうですね、お互いにキャラクターになりきってたんだと思います。

――撮影で特に印象深いシーンってありますか?

北村:一番はやっぱり、ムカデ人間にされた状態で螺旋階段を上がって逃げるところですね。撮影でもつながったまま上がるので、僕が階段を踏み外したら後ろの女優さんの首が折れちゃうんじゃないかとかそんな心配もしていて。演技じゃなく本気でサバイバルしている気分でしたね。ただ、プロデューサーのイローナさん(トム・シックス監督の妹)がすごく気を遣ってくれていて。あのシーンの撮影は身体的にもすごく負荷が掛かっただろうということで、プロのマッサージの方を呼んでくれたんですよね。そのくらい彼らにとってもリスクのある大事なシーンだったみたいですね。

――そういった過酷な撮影を乗り越えながら、人間の尊厳について考えさせられた先に、ラストのカツローのあの熱いセリフがあるんですね。

北村:身体的にもメンタル的にもすごくケアをしてもらいながら撮っていたんですけど、やっぱりああいう映画なのでちょっとずつ病んでくる。普通のメンタルではなくなっていくので、そういう心境が最後のシーンに繋がったと思いますね。ほぼ順撮りだったし、ドッグフード食べて「ごめんよう」しちゃったり、顔を蹴られたりしながら、そういう積み重ねの先にあのシーンがあるので。もし最初に撮っていたらあんな演技はできなかったと思いますね。そういう意味で、役者としてはすごく面白い経験でしたね。

――公開当時劇場で観たとき、あのセリフでカツローの心情があまりに伝わってきて泣いてしまったんですよ。

北村:わはは、ありがとうございます(笑)。カツローはいきなり連れてこられてムカデ人間にされてしまうけど、彼がどういう人間なのか、どんな人生を歩んできたのかが初めて見えるシーンですよね。僕自身がトム・シックス監督にあのセリフを提案したんですけど、「僕が書いたセリフじゃないからダメだ」なんてことは一切言わずに、「最高だ! ジーニアスだ!」と言って自由にやらせてくれた。そんな監督だからすごくやりやすかったし、今まで仕事したなかで一番の監督ですね。


『ムカデ人間3』にノリノリで出演したトム・シックス監督

『テリファー』のアート・ザ・クラウンはハイター博士より怖い

――『ムカデ人間』に対する反響ってアメリカと日本で違いがあったりするんでしょうか。

北村:アメリカでは『サウスパーク』でネタになったりセレブが言及したりして広がっていったので、名前はよく知られてるけど、カルト映画として地位を得てるというよりもポップカルチャーとして認知されている感じがします。日本ではカルチャーというより“映画”、カルト映画やホラー映画として盛り上がっているなというのをすごく感じますね。今回4K版で映画館にまた戻ってくるわけですけど、当時よりも大きな規模で上映するみたいだし、シネコンでもやるみたいなので正直信じられない(笑)。本当に大丈夫か、みたいな。

――『テリファー』の3作目もシネコンで上映していたので大丈夫なんじゃないかな、と!

北村:そうなんですね。じゃあ『テリファー』が地盤を固めてくれてるかもしれない(笑)。あの映画はやばいですよね!

――『テリファー』はご覧になったんですか?

北村:1を観ました。いやー、怖かったですね。怖くて2と3観れてないです(笑)。アート・ザ・クラウンがレストランで女性二人に対してふざけてみせるじゃないですか。可愛いポーズしたり怖い顔したり。僕は2歳の息子にああいうことをよくやるんですけど、めちゃくちゃ笑うんですよ。で、アート・ザ・クラウンはそういう2歳の子供にやるようなことを大人に対して本気でやってるっていうのがすごく怖い。ダメですね、怖くて苦手です(笑)。

――ハイター博士よりも、アート・ザ・クラウンのほうが怖い?

北村:ハイター博士は僕的には全然怖くないっす(笑)! ただの狂ったおっさんなので(笑)。


狂ったおっさんことハイター博士

――(カツローのマインドだ……!)『テリファー』のオファーがあったらどうされますか?

北村:出ますね!(即答) ムカデ人間にもなりますよ、『テリファー』のなかで(笑)。今の若い監督たちって僕のことをホラー映画のレジェンド扱いしてくれていて、去年もインディペンデントの映画に5作品くらい出たんですよ。やっぱり『ムカデ人間』から15年経ってるので、当時子供だった層が今は映画監督になっている。次の『テリファー』じゃないけど、アメリカで次の時代を担う映画に関われたらいいなと思って頑張っていますよ。

一生忘れられない濃い映画体験になると思う

――ハイター博士役のディーター・ラーザーさん、亡くなられてしまいましたね。

北村:びっくりしました。寂しいですね。撮影中はハイター博士になりきっていたので嫌な奴だったんですけど、撮影が終わったらニコニコしてすごいしゃべるおじいちゃんで、大好きでしたね。俳優として、この映画のストーリーを語るために何がいちばん効果的なのかっていうのを考え抜いて演じている方だったので、一緒にお仕事できたことが僕の血肉にもなってるんです。

『ムカデ人間』を日本に持ってきた配給の叶井俊太郎さんも亡くなられましたけど、ディーターさんしかり、叶井さんしかり、色んな人の想いがあってここまで来れた映画だと思うんですね。良い映画を撮るだけじゃだめなんですよ、色んな人がそれぞれの場所でがんばって劇場に届けられている。色んな方に愛されて、「いい映画だから観てくれ」っていう想いが乗せられていて、奇跡の映画だと思いますね。

――今回のリバイバルで初めて劇場で観る人や、『ムカデ人間』自体を初めて観る人もいると思いますが、そういう方たちに対してどんな想いがありますか?

北村:この世にこんな映画があるんだよ、こんな映画体験があるんだよっていうのを知ってほしいですね。カツローが日本語をしゃべってるし、日本の観客は特に没入できる映画だと思う。映画館で観たら、一緒にムカデ人間にされる気分を味わえるような(笑)。

公開から15年経って、当時赤ちゃんだったような人も映画を興味を持つ年代になってますよね。若い映画ファンはこれから良い映画にたくさん出会うと思うけど、コメディじゃないのに笑える、お涙頂戴じゃないのに泣く観客もいる、色んな感情が溢れ出てくるような、こういう型にはまってない映画はすごく貴重だと思う。笑いあり涙ありムカデありの映画で(笑)、一生忘れられない濃い映画体験になると思うから、怖がらずに観に来てほしいですね。

『ムカデ人間 4K』
8月21日(金)シネマート新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかロードショー

配給:トランスフォーマー

©2009 SIX ENTERTAINMENTPRODUCTIONS

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