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「我々が狂った世界に生きているから、自分の作品では狂気を描くんです」
最新作『地獄愛』がいよいよ日本でも公開となる、ファブリス・ドゥ・ヴェルツ監督にスカイプインタビューを敢行。「なぜあなたの作品はいつも狂気を描くのか」と訪ねたところ、先の答えが即座に返ってきた。
『地獄愛』は、1940年代に実在した殺人鬼カップル・マーサとレイをモデルに、グロリアとミシェルという男女の辿る道を描いた物語。結婚詐欺師であるミシェルは、詐欺相手のシングルマザー・グロリアに必要以上にベタ惚れされてしまう。自分の正体を明かすも一向に冷めることのないグロリアの愛。いつしかミシェルはそれを受け入れ、ふたりで協力して結婚詐欺を働きはじめる。しかしグロリアは詐欺相手の女性に過剰な嫉妬をし、ついには殺害してしまうのだ。かくしてふたりは、“騙して稼いで殺す”という地獄のような旅を続けることとなる。
ヴェルツ監督:世界って本当にちょっとおかしくなってきているし……だからこそ僕の作品では狂気が共通しています。僕の作品は基本的にラブストーリーだと思っています。そして、愛というのは狂気なんです。愛のために人間がすることが、狂気じみていてもおかしくない。僕はそこに惹かれるんです。
――マーサとレイを題材に選んだのは何故だったんでしょうか。
ヴェルツ:アイデアの発端は少し変わったものでした。映画祭で隣に座った女優ヨランド・モロー(『アメリ』『神様メール』などに出演)と、「君がクソ女みたいな役をやったらおもしろいだろうね!」なんてことを話してたんです。そのときは冗談半分でしたが、改めて、これはいいアイデアかもしれないと思ったんです。その後、マーサとレイを題材にした『ディープ・クリムゾン』という映画に出会って、この題材を現代を舞台に描きなおしてみようと思った。結局ヨランドはこの作品に出ることはなかったんですが、長いプロセスを経てグロリア役はロラ・ドゥエニャスに決まりました。
――『地獄愛』では特にロラ演じるグロリアの表情を印象的に見せていましたね。グロリアが死体を前に、ひとりでミシェルへのメッセージを歌い上げるシーンも強烈でした。
ヴェルツ:ロラはとても才能のある女優だと思います。「グロリアというキャラクターのカタルシスをどう表現するか」「リアルと狂気、リアルとファンタジーのバランスをどうやってとるか」については、撮影中ずっとロラと話し合いました。グロリアの歌う歌はこの映画のために作ったものです。あの場面はとても実験的なアプローチでした。撮ってはみたものの、実際にシーンとして成立するのか分からなかった。まあうまくいかなかったらカットしようくらいに思っていました。でも結果的に、人に見せても「すごく面白いシーンになったね」と言われるシーンになりましたね。
――マーサとレイの名前を、グロリアとミシェルに変えていますね。『変態村』に登場するグロリアと関係があるのですか?
ヴェルツ:事件に基づいてはいるんですが、『地獄愛』はあくまでフィクションだからです。僕はレイとマーサの独特なパッションや、セクシュアルなエネルギーを描きたかった。実際の事件のストーリーラインを借りたオリジナルの作品だと思っています。グロリアの名前は……なんだろな、僕は怠惰なので、『変態村』に使った名前をそのまま使っただけかも(笑)。これは『変態村』から連なる3部作になるので、女性のキャラクターをグロリアと呼ぶことで統一したと(笑)。
――『変態村』『地獄愛』は“ベルギーの闇3部作”になるそうですね。
ヴェルツ:もともとは単なるバカな映画だったかもしれないんですが、3つの作品が完成したときに何かが見えてきて面白いんじゃないかなと思ったのが、3部作を作ることにしたきっかけです。3作目は前2作に比べて多少ソフトなものになります。子どもたちが出てくるストーリーで、やはり緊迫したものではあるんですが。そしてグロリアという名のキャラもふたたび現れるでしょう(笑)。
――『変態村』にも『地獄愛』にも、強烈なダンスシーンが登場します。『変態村』のバーで踊り狂う村人たち、『地獄愛』では炎を囲み裸で踊るグロリアとミシェル。ダンスは監督の作品で何かのキーなのですか?
ヴェルツ:たしかにありましたね。理由は……う~ん……僕は自分の作品を分析するのが得意じゃなくて(笑)。いつも考えているのは、描こうとしているキャラクターの持つ過去やパッション、狂気をどうやって映像で表現するかですね。それを考えた末にダンスに行き着いているのかもしれません。僕は脚本を書くときに、画家のように本能的に筆を走らせているんです。できあがったものを批評家や観客が観て、共通するものを見つけてくれる。なので作るときにはあまり意識していないかもしれません。
――『変態村』は『悪魔のいけにえ』の影響を受けていると聞きました。『地獄愛』も何かにインスパイアされているのですか?
ヴェルツ:これという作品はないけれど、ズラウスキーの『ポゼッション』には影響を受けているかもしれない。撮影中にもちょくちょく観ていました。
――『ポゼッション』はイザベル・アジャーニの狂気の演技が素晴らしいですよね。ロラはあの演技を参考にしたのでしょうか。
ヴェルツ:『ポゼッション』はもちろんロラにも観てもらいました。女性の狂気のキャラクターについてはたくさん話し合って、出来上がったのがあのグロリアです。『ポゼッション』にはアジャーニのギョロッとカメラを見つめるカットがたくさんあって、それにもトライしてみたのですが、最終的にはほとんどカットしてしまいました。なので活かされているのはあくまで作品のエネルギーですね。もう作品も何本か撮ってきているので、これからは何かの影響というより実験的なものにチャレンジしていきたいですね。
――邦題の『地獄愛』からだいぶ雰囲気が変わりますが、原題は『ハレルヤ』ですね。これにはどういう意味を込めたんでしょうか。
ヴェルツ:ンー……(しばらく悩んで)、『ハレルヤ』という歌のタイトルからですね。あの歌には崇高なものや、秘密、人間の生きる目的……いろいろなものが詰まっていますが、映画の中の大切な要素が一言に凝縮されています。“祈り”という言葉に置き換えられるかもしれません。この映画の“愛”というテーマにぴったりだと思います。
作品の雰囲気とは一転、ときおり悩みながらチャーミングな笑顔でインタビューに答えてくれたヴェルツ監督。部屋には『変態村』日本版ポスターが飾られており、嬉しそうに見せてくれました。『地獄愛』の日本版ヴィジュアルも大変お気に召した様子。自分の作品が日本で公開されるのが本当に嬉しいとのこと。ヴェルツ監督が描く恐ろしくも美しい愛の物語『地獄愛』をぜひご覧ください。
映画『地獄愛』は7/1より新宿武蔵野館ほか全国にてロードショー。同じ題材のカルトクラシック映画『ハネムーン・キラーズ』と同日公開です。どうぞお楽しみに。ハレルヤ!
『地獄愛』『ハネムーン・キラーズ』公式サイト:http://2killersinlove.com/