ホラー通信

INTERVIEW 映画

悪魔は物理攻撃で倒せるか? オカルトに詳しい『悪魔祓い株式会社』イム・デヒ監督の見解 「悩ましいけど、マ・ドンソクなら……(笑)」

2025.12.11 by

「悪魔というのは意識として存在していて、“この世に実際にあるものではない”と考えています。だから、すごく悩ましいところではありますが……マ・ドンソクさんであれば可能だと思います(笑)

マ・ドンソクが企画・製作・主演を務めたホラーアクション『悪魔祓い株式会社』(12月12日公開)のイム・デヒ監督にインタビューを敢行した。力で敵をねじ伏せる剛腕キャラクターを演じることでおなじみのマ・ドンソクが、本作では“悪魔トラブル”を解決する会社のバウ社長を演じる。となると、マ・ドンソクが拳で悪魔を撃退するシーンを期待してしまうわけだが、オカルトに詳しいイム・デヒ監督に“物理攻撃で悪魔を倒すことは可能だと思うか”を聞いてみると、茶目っ気たっぷりに先の答えが返ってきた。

マ・ドンソク映画らしいユーモアと痛快でパワフルなアクションと、ホラーを得意とするイム・デヒ監督ならではの本格的なオカルトホラーが共存した本作。監督のこだわりのポイントをたっぷりと語っていただいた。映画本編とともにぜひお楽しみあれ。

イム・デヒ監督インタビュー

――企画・原案がマ・ドンソクさんだそうですが、企画はどのようにスタートしたのでしょうか? マ・ドンソクさんとどんなことを話し合いましたか?

イム・デヒ監督:一番最初にマ・ドンソクさんとお会いした時に何が得意かを聞かれ、私は「ホラーが好きでホラーを得意としている」と伝えました。何か面白いものを一緒に作れるだろうかと相談を始めたところで、マ・ドンソクさんから家ホラーを作ってはどうかと提案があったんです。その時、現在のキャラクターとは全く違うものではあったんですが、バウとシャロン(悪魔祓い株式会社のエクソシスト)のキャラクターを絵で描いてくださり、「こんな感じはどう?」と示してくださって。それを受けて私がストーリーを練り、シノプシスを彼に送って……という過程を数か月間続けました。そんな風にピンポンのようにやりとりをしながら肉付けをし、文字にしていく作業を続けていったんです。

――本作の構想には3年かかったそうですね。どのような点に時間をかけたのでしょうか?

イム・デヒ監督:構想というよりも、シナリオを完成させるまでに3年ぐらいかかっています。キリスト教的な要素と、東洋のシャーマニズム的なキャラクターを映画的に組み合わせていく作業にものすごく苦労しました。もちろん映画なので、想像力を働かせて創造することもできるのですが、それは神に対する冒涜であると思うんです。その上で、マ・ドンソクさんのアクションをどのように盛り込んでいくのかを考えました。闇雲に入れればいいというものではありませんしね。さらに、シャロンによるシャーマニズムも入れなければならず、どのようにすればぎこちなさがなく“異質感”を生み出すことができるのか考えました。

本作では、取り憑かれた人に対して悪魔祓いをして、悪魔ひとつを追い出せばおしまいなのではなく、それを犯罪集団やカルト集団のように構築していくことにしました。悪魔に取り憑かれる理由にしても、過去に犯した犯罪や病気によって外から悪魔が入ってくる……そんなところに着眼をしています。そんな風に悪魔に追随し、崇拝する者たちを作っていこうと思ったんです。さらに、その崇拝者たちの中にも階級があると考え、そうした部分を作り込んでいきました。

――本格的なオカルトホラーとマ・ドンソクらしい痛快なアクションとユーモアが見事に融合しています。このバランスを成立させるのに気を配った部分はありますか?

イム・デヒ監督:観客の皆さんに恐怖とともに面白さを感じてもらうというのは重要なポイントでした。怖いんだけど、同時に痛快なアクションも見せていく……それをどのように描くかすごく悩みました。それは3年間ずっと悩み続け、撮影に入る前も、撮影をしている間もずっと悩んでいたことです。

私は逆に、マ・ドンソクさんが出演しているのに彼の象徴ともいえるアクションやユーモアが抜けていたらどうなるだろうか?と考えてみることにしたんです。実は、そういうバージョンのシナリオも作ってみたんですが、やはりどこか不自然になってしまい、ではそれをどのようにして融合させればいいのかを悩み続けることになりました。

そこで考えたのが、“悪の勢力を倒す存在”としてバウを描くことです。エクソシストを描いた多くの映画では、エクソシストがひとりいて、ひとりで儀式を行いますよね。でも、今回は敵となる存在がカルト集団として描かれていて、悪を崇拝する人たちがいます。バウをそういう人たちから人々を守る存在として描いたらどうだろうかと考えたのです。最終的に取り憑いた悪魔を退散させるのはエクソシストであるシャロンなんですが、バウは悪の勢力や崇拝者たちを倒す……そんな風に、役割分担させることで映画の流れをスムーズにしました。

また、ユーモアやアドリブといった要素も同じです。マ・ドンソクさんが出演しているのにそれを抜いてもいいものだろうか? それについては私もマ・ドンソクさんもかなり悩んだところです。私は、北野武監督のコメディ作品がすごく好きなんです。そしてマ・ドンソクさんのコメディ作品も好きなので、そういうものをうまく融合させたいと考えました。マ・ドンソクさんのアイコンともいえるコミカルな部分も要所要所で入れたかった。怖いシーンのあとにちょっと面白い場面を盛り込むことで観客が心理的にリセットできて、物語が続いていく。そんな流れを意図を持って作り上げています。

――日本の映画ファンの間では、ホラー映画において悪霊や悪魔などを物理的な攻撃で倒すシーンがあると、痛快で面白いとしてたびたび話題になります。オカルトに詳しいイム・デヒ監督としては、物理的な攻撃で悪魔を圧倒することは可能だと思われますか?

イム・デヒ監督:“オカルトについてある程度の知識を持っていること”と、“創作すること”には大きな違いがあることを切実に思い知らされ、もっと努力をする必要があると感じました。

物理的に倒すことができるのかという問いですが、悪魔というのは意識として存在していてこの世に実際にあるものではないと考えています。だから、すごく悩ましいところもありますが、マ・ドンソクさんであれば可能だと思います(笑)。地獄の門が開いて吸い取られていく訳ですが、本作に出てくる“モレク”という悪魔は牛の形をしていて子どもを食べる悪魔なんです。でも、マ・ドンソクさんであればそれを倒すことができると思うし、観客の皆さんも納得できて、面白さを感じていただけるのではないかと思います。

――段階がしっかり決まっている悪魔祓いの手順や、悪魔祓いに使う道具が目を引きました。これは何に基づいているのでしょうか?

イム・デヒ監督:エクソシストや悪魔祓いを扱っている映画を見ていると、どれも同じような段階やパターンが存在します。色々研究する中で、もちろん細かな違いはあるものの、その中にも同じようなパターンが存在することを発見しました。例えば『NY心霊捜査官』という作品には、悪魔祓いの儀式における言葉の詳細などの言及があります。そういう傾向を分析して作り上げています。言語についても同じで、色々なものを組み合わせていきました。

シャロンは、キリスト教でいうところの司祭ではありません。にもかかわらず悪霊払いをするというのは、何かに反していたり宗教的な衝突があるのではないかと考え、それをどのようにうまく融合させようかと試行錯誤しました。私が以前作った独立映画でも、本作における悪魔祓いと同じような6つの段階を経ています。“霊を呼び出して、それを癒し、送り返す”――こういったことは、韓国的な考え方というわけではなく、中国や日本にもありますし、東南アジアにも似たような考えがあるようです。そんな風に捉えれば可能であると考えました。道具についても、巫女さんなどが使っているものというよりも、儀礼的に使われているもので、言葉についても同じです。

――定点カメラやスマホを使った映像など、POVホラーの要素も取り入れられていてワクワクしました。インスピレーションやヒントになった作品はありますか?

イム・デヒ監督:カメラワークについてインスピレーションを受けた作品というのは特にないんですが、依頼人で医師のジョンウォンと悪魔に取り憑かれた妹ウンソという姉妹の過去をどのようにすれば効果的に見せることができるのかを考えた結果、色々なスタイルによる映像を取り入れることになりました。バウたちのチームの中にはちょうど情報収集を担当するキムがいるので、防犯カメラやスマホといった様々なものが出てきます。そして、監視カメラ自体も何かに取り憑かれているのではないかと思わせたくて、色々と工夫をしていますよ。

――日本では近年、ラッセル・クロウがエクソシストを演じる『ヴァチカンのエクソシスト』が人気を博していて、今回の映画についても「『ヴァチカンのエクソシスト』とコラボしてほしい」というような反応がありました。監督が個人的に本作とコラボさせたいキャラクターや映画はありますか?

イム・デヒ監督:願望でいいということですので、キアヌ・リーヴスの『コンスタンティン』中島哲也監督の『来る』といった作品とコラボできると嬉しいですね。

『悪魔祓い株式会社』
12月12日(金) TOHOシネマズ日比谷 他 全国ロードショー

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