
「王子様といつまでも幸せに暮らしました、めでたしめでたし」……おとぎ話の幸せな結末から疎外された“脇役”は何を思うのか? 『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』(1月16日公開)は、シンデレラの醜い義姉妹のひとりを主人公に据え、美の規範に自分を押し込める苦しみを描いたボディホラーだ。ノルウェーの新鋭エミリア・ブリックフェルト監督が自身の脚本を大胆に映像化し、本作で鮮烈なデビューを飾った。
王子に恋心を抱いている主人公のエルヴィラ。母親は彼女の容姿が劣っていると感じていたが、再婚相手の急逝で生活が危うくなり、エルヴィラの外見を磨き上げて王子と結婚させようと画策する。憧れの王子と結婚するため、そして家族の生活のため、エルヴィラは過酷な肉体改造で美しく変身していくのだが、容姿に恵まれた義姉妹のアグネス(=シンデレラ)も、密かに舞踏会へ参加しようとしていた……。

麻酔を使わない整形手術に危険なダイエット。過度なプレッシャーでストレスに侵されながら、どこまでも犠牲を払っていくエルヴィラを見ていると、誰もが知る「シンデレラ」の結末があまりに恐ろしく感じられてくる。王子がシンデレラを選ぶあの結末が、どうか変わるようにと願わずにいられないのだ。
「幼い頃は自分もシンデレラに憧れていた」というブリックフェルト監督は、なぜ義姉妹を主人公に選んだのか。物語の着想やデヴィッド・クローネンバーグからの影響、特殊メイクのこだわりについてお話をうかがった。

メイキング写真/エミリア・ブリックフェルト監督
――シンデレラの義姉を主人公にするアイデアは素晴らしいですね。それだけでも「絶対に観たい!」と思わされました。アイデアの発端はなんだったのでしょうか。
ブリックフェルト監督:大人になって改めて、グリム兄弟版の「シンデレラ」で義姉妹の一人がガラスの靴を履くためにつま先を切断するシーンに感銘を受けたんです。私自身、足がすごく大きいんですよ。ヨーロッパサイズの42で、なかなか履ける靴が見つからないから、いつもちょっと小さめの靴を履かざるを得なかった。そのようにして育ったから、自分が世間的な美の基準から外れていて、そこに自分を押し込めるために何でもやらなければいけない、という意識が潜在的にあったんですね。
“ガラスの靴を履くためにつま先を切り落とす”という行為は、多くの女性たちが美を追い求めるなかで取り組んできたことを完璧に象徴していると気付いたんです。私たちはどこか「シンデレラになりたい」と思って育つんだけれど、大人になる過程で「自分は義姉妹の方なんだ」という現実に突き当たるわけです。だから、このとても人間的なキャラクターの視点で物語を描きたかったんですよね。

――義姉妹の物語を描くうえでボディホラーというジャンルを選ばれたわけですが、デヴィッド・クローネンバーグ監督の影響があったそうですね?
ブリックフェルト監督:クローネンバーグのボディホラーへのアプローチにとても影響を受けています。身体の変容を通して、キャラクターと社会との関わりを深く掘り下げるという点ですね。女性は昔から、そして現代では男性も、みんな自分の身体に対して葛藤を抱えていますよね。これは個人的な問題に見えがちなんだけれども、実は社会の基準に自分をはめ込もうとしているんです。絶対入りようのない小さいサイズの靴に足を入れようとするなんて、まさしくですよね。クローネンバーグの精神に則って、私も主人公が身体に行うあらゆる施術と変容において、比喩と深い意味を込めるようにしています。
ボディホラーは、観た人がキャラクターに起こったことを自分の身体に起こったことのように感じてもらえるという側面があるんです。この作品の場合、主人公のような葛藤を自覚しているのであれば、自分の体験を投影されていると思ってもらいたいし、逆にそういった経験がなかった人であれば、新たな理解や視点を得るきっかけになってほしいですね。

――ボディホラーは技術的なハードルがすごく高いと思うんですが、この映画はものすごくリアルな描写を実現していますよね。例えば主人公のエルヴィラは露骨に醜い顔をしているわけではなく、もともと可愛らしい顔をしているんだけど、整形手術を受けたことで一皮向けて明確に美しくなっている。そういった自然な変化の描写にはこだわりがあったのでしょうか。
ブリックフェルト監督:その部分に気付いてくださってとても嬉しいです。私もボディホラーの大ファンですから、その要素で観客を失望させるわけにはいかないと思っていました。ボディホラーではCGよりも“実際に存在するもの”と向き合うことが重要だと思っているので、実写の特殊効果にこだわっています。小さな作品だからなんでもやれるわけではなかったけれど、やりたいことにフォーカスしたのが功を奏しましたね。
エルヴィラに関しては、醜い人をキャスティングしようということは考えていませんでした。美の理想像から少し離れてさえいれば、誰でもエルヴィラを演じられるのです。最終的にリア・マイレンという私たちのエルヴィラを見つけ、特殊メイクのトーマス(Thomas Foldberg)とともに、彼女を土台としてエルヴィラの初期のデザインを考えていきました。
重要なのは、ディズニー映画やコメディのような醜さではないこと。当時も現代も魅力的とは見なされない特徴を持つ、普通の女性を描きたかったのです。過酷なダイエットをする彼女の体重の変化も、自然なものにしたかった。鼻を変える時も、ほんの少しだけです。これは現代の人々が行う整形手術にも近いものがありますよね。彼女の変化は大げさではなく常に現実の範囲内にあるんです。絶え間なく変化していくエルヴィラを撮影するのは本当に大変な作業だったけれど、とても楽しかったし、やった甲斐はあったと思います。

――つま先を切り落とそうとするシーンはアイコニックですが、個人的にもっとも衝撃的だったのは、つけまつげを直接肌に縫い付けるシーンです。あのシーンはどのように生まれたのでしょうか?
ブリックフェルト監督:あのシーンの撮影に関しては、昔からある合成のトリックを使っています。シンプルですがとても効果的ですよね。このシーケンスでは、ダリオ・アルジェントの『オペラ座 血の喝采』からインスピレーションを受けているんです。そこではすべてが“目”と“目の中の恐怖”に焦点を当てており、目がシーケンスの主役になる。まぶたを通しての視点はアルジェントを真似させてもらいました。
実は彼女が受ける施術は全て、過去の実話や噂などの調査に基づいているんです。アメリカの新聞が報じていたのですが、パリで針と糸でまつげを縫い付ける施術があったそうなんです。劇中と同じくコカインを鎮痛剤として使ったかは不明ですが、恐ろしい話だと思いました。作品にこのシーンを入れたのは、美しくなったエルヴィラがそれでも満足できず、常に人と比較して自分を“十分ではない”と感じ、新たに極端な手段に走る姿を描きたかったからなんです。
『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』
2026年1月16日(金)新宿ピカデリーほか全国公開















