この記事は1年以上前に掲載されたものです。
※追加上映情報を追記しました(2018/9/30)
まず謝罪から始めなくてはいけません。こんなに面白い映画があったのに、上映が始まる前にご紹介していなかったなんて……。申し訳ありません。でも善行に遅すぎるなんてことはないのです。そしてこの映画はそんなことを思わせてくれる物語でもあります。
映画『ローライフ』。
監督は新人で出演者は無名、見る人を選ぶ激しい人体損壊描写とヘビーすぎる内容にして、血反吐の中からスプーン一杯の美しい正義を掬いだすような、カタルシスに満ちた次代のカルトムービーです。現在新宿シネマカリテの映画祭『カリコレ2018』で上映中。
ファンタジア国際映画祭で審査員&観客賞をW受賞した今作。こういった小さな傑作映画を見逃さないクエンティン・タランティーノは、自前のルチャマスクを手に上映に駆けつける熱中ぶりだったそう。たしかにね、これ観たらあのマスク被りたくなるんですよ。わかるよタランティーノ! ビバ・ラ・モンストロ!
脇役のような主人公たち
ロサンゼルスとメキシコの国境の街を舞台に描かれる、貧困、臓器売買、売春、ドラッグ、不法移民などの重たい現実。登場人物たちはみな、“クズ”の二文字で片付けてしまえばそれまでの人々。一見関係なさそうに見える彼らの人生が、ある一点において複雑に関係していくさまがそれぞれの目線で描かれていきます。
それではまったく華々しくない登場人物の皆さんをご紹介しましょう!
ルチャ・リブレ(メキシコのプロレス)の選手で、メキシコの人々に「傷ついた者を助けるヒーロー」として認知される巨人レスラー“モンストロ”…………ではなく、その息子として生まれながら、ヒーローにふさわしくない体躯に生まれてコンプレックスまみれ、名前とマスクを受け継いだ“自称ヒーロー”でありながら、犯罪の幇助をしている落ちこぼれ元覆面レスラー モンストロ。
そして、彼の子ども=次代のモンストロを身ごもった臨月の妊婦にして、不幸な境遇で育ち、いつだって精神不安定でドラッグがやめられない妻。
病に伏しながらも手に酒瓶を巻き付けて酒をかっくらうアルコール中毒のクズ夫と、そんな彼を助けるため、移植する腎臓を必要としている主婦。
人目をはばかる大きな鈎十字のタトゥーを顔に入れているのにやけに心優しい青年と、彼が親友だと信じている黒人の会計士。
そして、彼らを結びつけるキーパーソンであり、彼らが立ち向かうべき存在。表向きはフィッシュタコス店のオーナー、影ではあらゆる犯罪の斡旋をしている男。
いかがでしょうか。みんな到底主役には見えませんが、誰一人欠けても物語が成立しない、重要なキャラクターたちです。
正義が悪を倒すという構図はしばしば物語のなかで見られるものですが、現実において人間は善人と悪人には分けられず、善と悪はひとりの人間の中で戦っているもの。生まれながらのヒーローなんて存在しない。今作で描かれるのは、あらゆる人々の葛藤が複雑に絡み合い、その結果として生み出される希望という名の“ヒーロー”の姿なのです。
目の前のクソみたいな現実をなんとか乗り切ろうとして、転落のジェットコースターに乗ってしまった“ならず者(=ローライフ)”たち。それでもなんとか希望に続く道を見つけたい。絶望で冷静さを欠いた彼らが、最後にできることはなんなのか? 迷い続ける彼らはどこまでも人間らしく、人生そのもののようにその先の予測ができません。
バイオレンスとユーモアとドラマを見事に融合させた新人監督のこだわり
目を覆いたくなるような人体損壊描写は、人が死ぬ・人を殺すということの重さを十二分に突きつけます。一方で、ふとした拍子にクスッと笑わせるようなユーモアも添えられるのが独特な雰囲気。社会問題を盛り込んだヘビーな物語ではあるものの、映画というエンターテイメントであることを忘れない、絶妙なバランス感覚が今作の魅力です。
監督したのは、これが長編デビュー作となるライアン・プロウズ。巧みに練り上げられたストーリーは、同じ映画学校育ちの5人の脚本家たちが書いたものだそう。プロウズ監督やスタッフ、キャストたちは日本での公開をいたく喜んでいるとのこと!
今作に登場する青年の顔いっぱいの鉤十字タトゥーには当初プロデューサーすらも反対したそうですが、監督のこだわりによってなんとか引き受けてくれる俳優を見つけ出し、ようやく実現したものなんだとか。本編を見ればこのタトゥーがこのデザインでなければならない理由が分かるはずです。
カリコレでの上映は8/4を残すのみですが、9月に大阪での上映も予定されているとのこと。そして口コミで評判が広まればカリコレ以外での上映もあるかもしれません。あまりにも血生臭く、人間臭いヒーローの物語『ローライフ』、できれば劇場で体感してくださいッッ!
※追記 大阪上映
シネマート心斎橋
9月29日(土)より1週間上映
劇場サイト http://www.cinemart.co.jp/theater/shinsaibashi/
※追記その2 『カリコレ2018』追加上映
新宿シネマカリテ『カリコレ2018』 1回限りの再上映
8月16日(木) 午前9時45分〜
公式サイト http://qualite.musashino-k.jp/quali-colle2018/
※追記その3 東京 追加上映
池袋・新文芸坐 特別レイトショー
10/16(火)~18(木) 開場20:40 開映20:55(終映22:30)
【特別料金】一般1300円、学生1200円、友の会・シニア1000円
※当日朝から整理番号付き当日券を販売(前売券販売なし)
劇場サイト http://www.shin-bungeiza.com/
作品概要
『ローライフ』
カリコレ公式サイト:http://qualite.musashino-k.jp/quali-colle2018/
<ストーリー>
貧困と犯罪、危険と悪意に満ちたメキシコ国境近くのLA。この街には不法移民やチンピラ、ジャンキー、様々な人達が交錯している…
元覆面レスラー“モンストロ”はこの街で悪業を斡旋するボス(テディ)の片腕として働くが、キレると何をしでかすが判らなくなる。過去の栄光を捨て家族の為に金を稼ぐが、妻は麻薬中毒で喧嘩が絶えない。この街では、警官も信用できない。金の為にテディの臓器売買、殺人に一役買っている。犯罪にまみれたこの街で、エルモステロは妻に宿った赤ん坊だけが未来への希望なのだがー
製作:トム・フォンドル
監督:ライアン・プロウズ
脚本:ティム・カリオ ジェイク・ギブソン ライアン・ブロウズ
撮影:ベンジャミン・キチェンズ
時間:96分 製作国:アメリカ(英語 スペイン語)
<キャスト>
クリスタル:ニッキー・ミッチョー
エル・モンストロ:リカルド・アダム・サラテ
テディ:マーク・バーハム
ランディ:ジョン・オズワルド
キース:シェイ・オグボンナ
ケイリー:サンタナ・デンプシー
ファウラー:ホセ・ロゼテ