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コロナ禍のピンチを大きなチャンスに変えた映画製作者がいる。1月15日より公開となる映画『ズーム/見えない参加者(原題:HOST)』のロブ・サヴェッジ監督だ。
ロックダウンされたイギリスで、サヴェッジ監督は友人とのオンライン飲み会でイタズラを仕掛け、その模様をTwitterに投稿。これが話題を呼び、ホラー専門VOD「SHUDDER」のもとで映画化が決定。ロックダウンという状況を活かした作品にすべく、監督はビデオ会議ツール“Zoom”を使って撮影を敢行、わずか12週間で本作を完成させた。2020年7月に配信が開始されるや、本作は各メディアの注目を集め、米レビューサイト「RottenTomatoes」で批評家満足度100%を叩き出す。本作の成功によって、サヴェッジ監督はジェイソン・ブラムやサム・ライミといった名だたるホラー製作者と契約を結ぶこととなり、現在複数の新作を準備しているという。
『ズーム/見えない参加者』は、すべてがZoomの画面で進行する恐怖の物語。コロナ禍においてZoomを介して交流や飲み会をするようになった現実世界と同じく、映画の登場人物たちもZoomで集まる友人同士。ただの飲み会では飽き足らず、彼らは霊能者を呼び、興味本位で“Zoom交霊会”を開く。しかし、その交霊会に予期せず悪霊が参加し、阿鼻叫喚の地獄絵図と化してしまう。ロックダウン下での撮影の制約など一切感じさせない、バリエーション豊かな恐怖描写が見ものだ。この映画はいかにして作られたのか? 映画と同じくZoomでサヴェッジ監督にインタビューを行った。
[画像:Zoomでインタビューに応じるサヴェッジ監督]
――映画製作のきっかけになったイタズラ動画には、映画のキャストたちや共同脚本家のジェド・シェファードさんの姿も見えますね。“オンライン飲み会でのイタズラ”という体裁のショートムービーではなく、本物のイタズラだったのでしょうか?
「本当のイタズラですよ。彼らは何も知らなかったんです。もともとずっと彼らに「屋根裏から何かの音がする」って話を何ヶ月もしてたんですね。なのであのイタズラも、彼らはその話の続きのように受け取ったんだと思います。ちなみに、ロックダウンが始まるとき、僕は真っ先に屋根裏に殺人鬼が潜んでいないか確認しましたね(笑)」
――「イタズラだよ」と明かしたとき彼らはどんなリアクションでしたか?
「驚いてくれたけど、わりとすぐにイタズラだと気付いたみたいです。こういうイタズラをやったことはなかったんだけど、“ホラー”を呼吸して生きてるような人間だとみんな認識してくれているので、すぐに「あ!!」となったみたい(笑)。「もう二度と口ききたくない!」というようなリアクションをされましたね……」
霊媒師が「オンラインで交霊会やってるよ」って言うんですよ
――映画では登場人物たちがZoomで交霊会をすることに驚かされましたが、“Zoom交霊会”というのは本当にあるんでしょうか?
「共同脚本家のジェドと「Zoomで映画を作ろう」とアイデア出しをしていたときに、新型コロナウイルスによるロックダウンという“今”の状況に関わりながらもクラシックなホラーの要素がほしいなと思って、交霊会はどうだろうと思いついたんです。僕、もともと降霊術をよくやっているんですよ。霊媒師の知り合いも沢山いるし、これまでの作品でも霊媒師をキャラクターとして登場させているんです。このコロナ禍のなかで彼らはどうしてるんだろうと思って連絡してみたら、みんな「オンラインで交霊会やってるよ」って言うんですね。実際にあるなら映画でもやろう!と思ったんです」
――本編終了後にリハーサルで交霊会をやっている映像が流れますが、本編で起こったことがいくつも起きますね。あれは本物の交霊会をやっているのでしょうか?
「あれは本物の交霊会です。キャストたちがどんなリアクションをとるのか見てみたかったので、リサーチがてら、本物の霊媒師を招いてやってみたんです。実際に色んなことが起こったので、それらを脚本にも取り入れていきました。僕もZoomでの交霊会はあのときが初めてだったので、とても興味深かった。
霊という存在に関しては、僕は信じたり信じなかったりですね。最初に交霊会をやったときは猜疑心がありました。自分の番になって、「もし霊がいるなら何か言ってください」と言ったときに、自分の部屋の戸棚がバタンと閉まったんですよ。その瞬間は信じましたね! 今はどうか分からないけどね(笑)」
キャストは自分以外に何が起きるか知らないんです
――とてもリモートで撮影したとは思えないような作品になっていましたが、具体的にどうやって撮影を進行したのでしょうか。
「まず、あのイタズラ動画でキャストたちがとても驚いてくれたので、映画でも同じようなことをやろうと思ったんです。驚くようなシーンはすべて別に撮影しておいて、キャストにはそれを見せず、何が起きるかも知らせないんです。脚本もなくて、自分のキャラクターについてのアウトラインだけを知らされている。つまり彼らは、自分以外の登場人物に何が起きるか全然知らないんですよ。なので怖いシーンを見たときのキャストのリアクションは全部ホンモノなんです。
自分のキャラクターのパートでは、キャストたちには録画・撮影・照明・カメラワーク、場合によってはSFX的なこともすべてやってもらわなければいけませんでした。最初にやったことは、彼らに“釣り糸”を送ることです。物を動かしたりドアを閉めたり、まずはそういうオールドスクールな演出から実験的にやっていきましたね」
――ロックダウン下における撮影はサヴェッジ監督にとってどんな体験でしたか?
「誰かと一緒にいるときの独特のエネルギーというのはないわけですよね。演出も今までと違った方法でやらなければならなかった。でもみんな仲の良い友人でもあったので、すぐに良いリズムが生まれてきたんです。最初は「うまくいかなかったらどうしよう?」と心配していましたし、キャストにも色々やってもらわなければいけないことがあるので不安は多かった。でも作りはじめて気付いたのは、ネットでつながっている人なら誰でも参加できる作品だったということなんです。スタント・パーソンやSFXスタッフなど沢山の人が関わっていますが、地球の反対側にいる人でも参加してもらえるような状況だった。ロックダウンという状況を逆にチャンスに変えられたという感じでしょうか」
現実と映画の一線が少し揺らぐようなものにしたかった
――12週間というごくわずかな時間で構想から完成までこぎつけたのはなぜだったんでしょうか。サヴェッジ監督自身で期限を設定したのですか?
「なんならそれよりも早く完成させたかったくらいなんです。作って、リリースして、観客の皆さんに観てもらうところまでロックダウン中にすべてやりたかった。なので急ピッチの作業が必要でした。それだけ私たちの現実が目まぐるしく変わり続けているし、そういった現実がリンクしている状況で観てもらいたかった。『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』のように「これは現実に起きていることだ」という演出にするつもりはないけれど、現実と映画で起きていることの一線が少し揺らぐようなものにしたかったんです。なので昼はキャスト、夜はスタントさんたちと、毎日毎日寝不足になりながらプロデューサーとがんばって作業していましたね」
――この映画に対する反響で印象的なものはありますか?
「この映画を観てリアクションしている動画を、色んな人がアップしてくれているんですね。映画が普通に公開されていれば、観客と一緒に劇場で観て、彼らのリアクションを見ることで感じられるものがいっぱいあるわけです。特にホラー映画はそうですよね。それができなかった間、リアクション動画がそれの代理になっていました。その後、ロックダウンの合間に何回か観客とともにスクリーンで映画を観る機会があったんですが、みんなすごく良いリアクションをしてくれて、「怖い映画が作れたんだな」と実感しましたね。あとは、本当にたくさんの方がこの映画を観てくださって、スティーブン・キングや、マイク・フラナガン監督といった人が楽しんでくれたことも嬉しかったですね」
――今はサム・ライミとも仕事をしているそうですが、ライミ監督の『死霊のはらわた2』が、映画製作者を志すきっかけになった作品だと聞いています。どういったところに惹かれたのでしょうか。
「監督の仕事というものはどういうものなのかを気付かせてくれた作品なんです。本当にサム・ライミっぽい映画で、カメラの裏側に“監督”という人間がいて、あらゆる選択をして作ってる作品なんだなというのが分かる。もうひとつ大きなことは、映画において、恐怖やゴア描写と、笑いやユーモアが一緒に存在していいのだと気付かせてくれたことなんです。恐怖とユーモアの両立というのは今回の作品でもそうだし、自分の作品ですごく大事にしていることです。ちなみに、いまジェイソン・ブラムと一緒に作っている作品が、かなり『死霊のはらわた2』のムードを持っている作品になっていますよ!」
『ズーム/見えない参加者』
1月15日より、新宿ピカデリー、グランドシネマサンシャイン、シネクイントほか全国にてロードショー
鑑賞料金:一律1000円
(C) Shadowhouse Films and Boo-Urns 2020