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社会風刺を込めたスリラー映画『ビバリウム』ロルカン・フィネガン監督インタビュー 「皆さんの考え方に変化を起こしたい」

2021.03.11 19:00 by

ポップなのにどこか不安になるビジュアルと、好奇心を掻き立てられる奇妙なあらすじが注目を集めているユニークなスリラー映画『ビバリウム』が3月12日より公開される。

描かれるのは、不思議な住宅地に閉じ込められ、強制的に“子育て”をさせられる哀れな若いカップルの姿だ。何をどうしてもそこから抜け出すことはできず、誰の子かも分からない子供の奇妙な振る舞いが二人を更に追い詰め、精神を崩壊させていく。

一体この風変わりな映画はどうしてできたのか? 本作を手掛けたロルカン・フィネガン監督がインタビューに応じてくれた。

本作の顔とも言える、住宅地「ヨンダー」。同じサイズ・同じ形のミントグリーンの家が無限に立ち並び、空には“いかにも雲らしい雲”がコピー&ペーストを繰り返したように浮かんでいる。そんな奇妙なルックスとは裏腹に、“本物の理想の家”という聞こえのいいキャッチコピーを掲げ、未来のために新居を探しているカップルを誘い込む。この世界観には、資本主義への痛烈な風刺が込められているという。

ロルカン・フィネガン監督「2000年頃に、アイルランドでああいった形の住宅建築が人気があったんです。物件がたくさん作られていくなか、リーマンショックが起きてしまい、途中で工事が中止された建物が沢山ありました。新しい建物なんだけど無味乾燥な感じがして、それに対して不気味な印象を持っていたんです。当時そういった物件を売っている広告では、それを“理想の家”と謳っていたんですよ。しかし、“理想の家”を買った方が、ローン地獄に陥ったり、不況になってしまって家を売ることができなかったり、非常につらい思いを経験したんです。そういったことがこの作品に影響を与えています。あとは勅使河原宏監督の映画『砂の女』の影響も大きい。あの物語も、“決して逃げることのできない家”から逃げようとする主人公を描いていました。

この50~100年で、社会的な構造は大きく変わりました。それまであったコミュニティというものが、コモディティ(商材)に置き換えられてしまった。グローバリズム・資本主義が台頭してきて、資本主義というものはどんどん「買え」「買え」と促し、収益をあげようと動くわけです。その構造が拡大していくばかりなんだけど、それをキープし続けることはできない。どこかで壊れてしまうんです。そうして先のような悲劇が生まれるんですね」


フィネガン監督「住宅地「ヨンダー」のデザインは、ルネ・マグリットの絵画「光の帝国」に影響を受けているのですが、あの絵画のような“どこか夢を見てるような感じ”を目指しました。人々が住宅パンフレットのなかに囚われているようなイメージです。Photoshopで作られたような完璧な雲が浮かんでいて、そういう光景の中に閉じ込められてるような世界観を目指したんです。

CGのテストをいくつかして、庭のサイズから色彩まで、僕なりのイメージを調整していきました。意識下でちょっとザワザワするようなデザインですね。できあがったイメージを現実の世界で作り出すというのは大変な作業でしたが、今まで短編作品を作るたびにイチから世界観づくりをやっていたので、そういった経験が助けになりました」

不気味な不動産屋職員マーティン


何も知らない若いカップルを「ヨンダー」へと導くのは、不動産屋の職員マーティンだ。イモージェン・プーツとジェシー・アイゼンバーグの二人が、ごく自然体で血の通ったカップル像を演じる一方で、ジョナサン・アリス扮するマーティンは、不自然且つユーモラスで強烈な印象を残す。

フィネガン監督「マーティンはキャスティングが難しい役でした。たくさんの方にオーディションを受けていただいたんですが、いわば“不気味の谷”と言われるような、“あとちょっとで人間なんだけど、そうじゃない”という感じがほしかった。

オーディションでも、役者さんたちに「人間のふりをするような演技をしてみてほしい」とリクエストしました。ちょっとした行動のタイミングがズレていたり、普通の人間がやらないような行動が挟まれたり、「なんか違うな?」と違和感を抱かせるような演技をしてほしいとお願いしたんです。そうしたら、ジョナサン(・アリス)が一発で解答を出してくれた。そのときから彼はパーフェクトだったので、現場で衣装を着てメイクを施したらマーティンがもう完成していたんです。イモージェンとジェシーは、撮影現場に入るまで彼に会わなかったので、会った瞬間に「不気味だなぁ!」と驚いていましたけど、その不気味さにリアクションする演技をすごく楽しんでいましたね」


[本編映像:マーティンが登場する内見シーン]

風刺的ジャンル映画の魅力

もともと『トワイライトゾーン』のような風刺的なSFに大きな影響を受けているという監督は、ブラックな社会風刺で人気を博す『ブラック・ミラー』シリーズ原案として知られるチャーリー・ブルッカーのもとで働いていたこともあるという。監督が風刺作品に魅せられ、自分でも作品を作るその理由は何だろうか。

フィネガン監督「当時チャーリー(・ブルッカー)の製作会社「Zeppotron」が『Unnovations』というシリーズを作っていて、ニセのショッピングチャンネルのような不条理コメディだったんですが、これに関わりたくて入社したんです。編集などから始めて、結局2年ほど在籍していました。すごく小さなチームで、少ない予算で毎週作品を作らなければならないような状態だったから、大学生に戻ったような気分でしたね。コメディの間合いや、物語上の真実が明かされるときはどうあるべきなのかとか、そういった感覚を学びました。最高の体験でしたよ。チャーリーはその頃今ほど有名ではなかったけど、当時からすごく面白い方でした(笑)。

僕は風刺作品で観客の生き方に影響を与えられると思っているんです。SFに限らずですが、ジャンルというレンズを通して現実を描くこということは、私たち人間が“どういう状態”で、“誰”であるのかということを興味深い形で見せてくれるものだと思うんですね。単に“ドラマ”であれば、リアリティが求められてしまうところを、SFだとメタファーや抽象的なビジュアルを使うことができるし、それによって私たち自身や社会を反映させ、誇張したかたちで見せることができる。そういった作品を作ることで、観客の皆さんの社会や世界との関わり方、「こういうふうに生きたい」という考え方に変化を起こしたいなと思っていますね

『ビバリウム』
2021年3月12日(金)、TOHOシネマズシャンテ他全国公開

監督:ロルカン・フィネガン 
脚本:ギャレット・シャンリー 
出演:ジェシー・アイゼンバーグ、イモージェン・プーツ、ジョナサン・アリスほか
2019|ベルギー・デンマーク・アイルランド|英語|98分|シネマスコープ|原題:VIVARIUM|字幕翻訳:柏野文映|R-15
提供:パルコ、オディティ・ピクチャーズ、竹書房 配給:パルコ

(C) Fantastic Films Ltd/Frakas Productions SPRL/Pingpong Film

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