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昨年は奇跡のコラボユニット「筋肉少女帯人間椅子」として、シングル『地獄のアロハ』をリリースし、渋谷公会堂でのライブを大成功させた「人間椅子」。アニメ『ニンジャスレイヤー』のED楽曲担当、人気声優・上坂すみれさんへの楽曲提供など、ますます精力的に活動しています。
そんな人間椅子の新作アルバムが『怪談 そして死とエロス』。『芳一受難』『雪女』『三途の川』といった、“怪談”をテーマにした楽曲12曲を収録し、音楽ファンのみならず、怪談小説好き、ホラー好きからも注目を集めています。なぜ怪談というテーマにこだわったのか? 怪談が私達に教えてくれる事とは? 和嶋慎治さんにお話を伺いました。
―新アルバム『怪談 そして死とエロス』がリリースとなりましたが、まずこのコンセプトに至った経緯などを教えてください。
和嶋:僕等のバンドっていうのは古くからずっと聴いてくれてる方はもちろんですが、最近知ってくれた方も増えたなという気持ちがあって、そんな皆さんにも改めて「人間椅子らしさ」を発信したいなと思いました。人間椅子の音楽は暗めのハードロックに日本語の歌詞をのせていくというスタイルですけど、曲のタイトルとかアルバムのタイトルに難しい言葉を使う事を多いんですね。でも今回はそうじゃなくて、少し“キャッチーさ”が欲しいと思ったんです。それはすごく売れたいとかそういう事では無いんだけど。僕等がやっている事を一般の方にも分かりやすい形で伝えようと思った時のワードが「怪談」だったんですね。そのコンセプトは2015年の前半にはもう決まっていました。
―ほぼ一年近く「怪談」というテーマを貫いてきたわけですね。
和嶋:「怪談」、怖いものをやるっていうのは本来自分達がやりたい事に帰るというのもあって。後、このアルバムを出すまでに『ニンジャスレイヤー』というアニメのエンディングテーマを手掛けさせていただいて、「泥の雨」という新曲を書き下ろしました。これは現代の恐怖を描いたつもりなのね。この曲で、上手く現代の怪談を描けたなと思った。それで、アルバムでは現代が失った恐怖を描きたいと思って、最近見なくなった妖怪とか幽霊とか、そういうった物の中にこそ実は人間の温かさがあるんじゃないかなと。「情」という事を教えてくれる存在だったのかもしれないと。
―「そして死とエロス」という言葉も、色気があって人間椅子にしか出来ない世界観であると思いました。
和嶋:『怪談』というタイトルだけだと何だなと思い、洒落っ気を出してみました。「怪談」というのは主役は向こう側なわけです。あの世から目には見えない者達がこちらの世界に向けて何かを訴えかけてくる、というのが怪談だと思っているので、その事によって「自分達は生きている存在」だと知る事が出来る。その死生観を補足するという意味で、死とエロスという言葉をつけました。
―和嶋さんは元々怪談がお好きだったんですか?
和嶋:そうですね。やっぱり好きなんですね。もともと(自分の中に)無い言葉は出て来ませんので。人間椅子がスポーツを取り上げたアルバムというのは出来ないので(笑)。
―和嶋さんが感じる怪談の魅力とはどんな所にあるのでしょうか。
和嶋:明治維新前の怪談を読むと特に情や温かさを感じますね。僕が特にそう感じるのは小泉八雲さんの本で。あの方は日本人では無いですけど、明治の頃に日本にきて「このままだと日本が失われていく」と思ったそうなんですね。それは客観的に日本を見ているからこそ感じられた事だと思うんだけど、彼の本にはすごく人間の温かさと美しさがあって。悲しくて恐い話なんだけど、一方で生が浮き彫りになっている。そういう事を音楽でやってみたいと思ったんですね。
後は、上田秋成の怪談も情緒がある。あの人は江戸時代だから、侍が出て来るお話なんかもありますが、『菊花の約』は怪談という体裁をとっていながら人間の誠実さについて見事に描かれている。今の怪談はあんまりそういうのが無いなと思うんですよね。今の怪談って都市伝説みたいな、「いかに人間が信用出来ないか」という話ばっかりで、信頼関係が無いと思うんだよね。他人が信じられなくなるお話ばかりという事は、現世がそういう状況になっているからなのかなとも思うし。
―確かに古典の怪談には恐さだけでは無く、教えもありますよね。
和嶋:そう。そして、何より「愛」がありますよね。人間を裏切ったら最後に痛い目に合うという勧善懲悪という観点も出てきて、それを古くさくて面白く無いと感じる人もいるかもしれないけど、良く出来た怪談というのはいつの時代に読んでも興味深いです。
―今回のアルバムで、一番苦労した曲はありますか?
和嶋:「恐怖の大王」ですね。そしてこの話には前置きがあって。「OZZFEST」に昨年2回目の出演をさせていただいて、1回目は出れた事がただとにかく嬉しいという状態ではあったんだけど、2回目は他のバンドも色々見させてもらって、すごく勉強になりましたね。まず思ったのは外国人とのパワーの差。オジー・オズボーンのステージを観た時に文化祭っぽいなと感じて、それは大の大人が全力で音楽を楽しんでいるという意味なのだけど、やっぱロックって洒落なんだなあと思いましたね。皆を楽しませる為にキャッチーな演出をするし、そして自分達が一番楽しんでいる。この事は『怪談 そして死とエロス』のコンセプトをより明確にしてくれましたね。
それで「恐怖の大王」という曲は、これはダースベイダーの曲を作りたいなと思ったのが最初でした。ダースベイダーは悪の存在なのに最も魅力的で人気のあるキャラクター。やっぱりそうか、皆ダークサイドでありながら、ポップな存在が好きなんだなと思って。そんな曲を作りたくて、曲は上手に出来たんだけど、歌詞がただの悪になってしまったんです。悪を描く事によって善を感じて欲しかったのに、ただただ救いが無くなった。聴いた人が嫌な気持ちになっちゃう様な。それで歌入れの時に鈴木(研一)君にも「このBメロ大丈夫?」と言われて。ただ弱い者をいじめているだけの歌詞になっていたんですね。それで次の日に全部書き直して、今の曲に。ダークサイドから光を見出せる曲に直せて良かったなと。
ちなみにダースベイダーの曲を作りたいと思ったのはたまたまで、僕はテレビ観ないので新作(『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』)をやるという事も知らなかったんだけど、偶然にも思い切り時流に乗ってるなと驚きました(笑)。
―確かにダースベイダーは悪だけの存在ではありませんものね。まさに悪の中に差し込む光、だと思います。人間椅子はアートワークが毎回とても凝っていますが、本作についてはいかがですか?
和嶋:ここ最近のジャケットはイラスト的な物が続いていたので、今回は改めて自分達の顔でいこうと。「怪談」というアルバムのテーマ、曲のコンセプト等をデザイナーに伝えて、イメージに合う場所を探してもらって、秩父で撮影しました。初回限定版には自分達の顔をオーブみたいに散らしてみて、ちょっと遊び心を。最初は心霊写真みたいな物は洒落にならないからやめようか、という議論もあって。そういう部分は結構気にしましたね。死を露骨に感じさせるデザインのCDを出すと、そのバンドには大体嫌な事が起るという。死をイメージしつつ生きるという事を表現するのにはこだわりました。
―「生と死」にとことんこだわりを感じます。今日のお着物も本作に合わせて?
和嶋:そうですね。僕の着物は毎回知り合いの呉服屋さんにお願いしているのですが、この着物は袖の裏地が真っ赤なんです。それは内面から沸き上がる生、つまり血をイメージしているのですが、こんな着物普通にはありませんからね。『怪談』用です。
―最後にお聞きしたいのですが、皆さんには霊感があったりするのでしょうか……?
和嶋:僕はちょっとあるかもしれません。このアルバムの制作後も色々あって。レコーディングでは、鈴木君が「三途の川」って曲を一人で歌っている時に、プレイバック用のラジカセが電源オフなのに、カタカタカタカタいきなり鳴り出して。それは皆「おっ……」って思いましたね。
―それは恐ろしい……。そんな裏話を考えつつ、アルバムを楽しませていただきます。今日はきちょうなお話をどうもありがとうございました。
『怪談 そして死とエロス』好評発売中!
01. 恐怖の大王
02. 芳一受難
03. 菊花の数え唄
04. 狼の黄昏
05. 眠り男
06. 黄泉がえりの街
07. 雪女
08. 三途の川
09. 泥の雨
10. 超能力があったなら
11. 地獄の球宴
12. マダム・エドワルダ人間椅子オフィシャルサイト
http://ningen-isu.com/