ホラー通信

INTERVIEW 映画

くるむあくむ共同脚本の参列型ホラー『◯◯式』近藤亮太監督インタビュー “ノージャンプスケア”の理由、ホラー作品で目指すもの

2025.06.28 by

『◯◯式』近藤亮太監督インタビュー

「キャスティングや演出、シナリオ面でも、ちょっとチャレンジングなことができるフィールドとして“中編映画”というのはすごく面白い」

“ノーCG、ノー特殊メイク、ノージャンプスケア”を謳ったホラー映画『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』(2025)で長編デビューを飾り、ホラー映画ファンの心を一気に掴んだ近藤亮太監督はそう語る。最新作は式典を題材に、観客を参列者と見立てた“参列型”中編ホラー映画『◯◯式』だ。書籍「或るバイトを募集しています」で“アルバイト募集”という日常のモチーフから言い知れぬ不気味さを生み出した作家くるむあくむ氏が共同脚本として参画し、新鋭監督によるホラー短編集「NN4444」の異例のヒットで話題を集めた新進映画レーベル「NOTHING NEW」が製作・配給を務めた。

主演は、YouTuberとしても人気を博す九十九黄助(つくもきすけ/かいばしらから改名)と、『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』で強烈な存在感を放った吉田ヤギ(よしたやぎ)。俳優としてそれぞれ独特の魅力を持った2人が演じるのは、結婚式などの撮影を仕事とする兄弟だ。とある式に赴き、粛々と仕事を進める2人だったが、次第にその式がなにか異様なものであることに気付く……。上映時間は40分ほど。おそらく誰にとっても初めてであろうこの“式”に参列できる本作は、6月27日(金)から下北沢K2にて先行上映が始まっており、7月4日(金)より全国順次上映される。

長編映画よりもリスクが少ないからこそ本作でチャレンジングなことができたという近藤監督に、“いま”のホラーを担う「NOTHING NEW」やくるむあくむ氏との協働、魅力的な2人の主演俳優、自身の個性とする“恐怖の手法”などについてお話を伺った。

――今回「NOTHING NEW」さんとくるむあくむさんとの協働ですが、どんな経緯があったんでしょうか。

近藤亮太監督(以下、近藤):「NOTHING NEW」代表の林さんとはかなり古い知り合いなんです。映画美学校での先生だった三宅唱監督のワークショップに参加したとき、当時大学生の林さんもいて。そのあと何年も会っていなかったんですけど、彼が映画の会社を立ち上げてから「何かやれたらいいですね」という話をするようになった。それで企画を考えていたタイミングで、くるむあくむさんが出された「或るバイトを募集しています」という本を読んだんですよ。ああいう“アルバイトの募集”っていうところに着目して話を作るっていうのはめちゃくちゃ面白いよね、って。たしかに、知らない人のところに行って仕事させてもらうのって結構怖いことかもしれない。そういうことって他に何かあるかな?というところで、“式典”のアイデアが出てきた。そこでくるむあくむさんはすごく頼りになりそうなので、お声がけしました。

――「NOTHING NEW」さんのホラー短編集「NN4444」の上映が満席続きでSNSで話題になっていましたけど、それをご覧になっていていかがでしたか?

近藤:いや、すごいなと思いました。必ずしもお客さんがこぞって観に行くタイプの映画ではないと思うんですけど、それをよくこんなにみんなが興味を持つものにしていったなと。上映劇場はそんなに大きなところじゃないので埋まらないことはないと思うんですけど、でも「もう満席です、次に取れるのは明後日です」みたいに言われちゃうと、「じゃあ早めに取っておこうかな」ってなる。そういうのが続いて、どうもみんなが反応してるらしいという状況になってくると、行こうかどうか迷ってるぐらいの人はすごく反応しやすくなる。“興味を最大化する”ということにすごく真剣に取り組んでいることが伝わってきました。

――くるむあくむさんと共同で脚本を書くにあたってどのように作業を進めていったんでしょうか。

近藤:すごく大雑把に言うと、まず僕が映画の前半部分をイメージとして作って、それを一旦お伝えして、くるむあくむさんから後半の部分で明かされていく真相のベースになるアイデアをいただいて。一度僕が脚本を書いて、そこからさらにくるむあくむさんに色々アイデアを出していただいて……キャッチボールをしていったみたいな感じの作り方でしたね。

後半の真相の部分に関しては、僕からは絶対出てこないアイデアですね。もし自分の頭の中で一瞬よぎったとしても、一回否定してしまうタイプのアイデアだと思うんですけど、くるむあくむさんが培ってきた怖さの表現を信じられるから取り入れられたというか。僕はもうちょっとリアリスティックに作ろうとしちゃうんですが、別にそれがいいわけでもなくて。これぐらい攻めた設定にしても、ちゃんと面白くなるんだなと思いましたね。

「この2人が兄弟だったらめっちゃいいな」

――『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』と共通する部分で、“撮影する主人公”と“兄弟”という要素があったので、そこはやっぱり近藤監督のアイデアなのかなと思っていました。

近藤:そう言われればそうですね。主人公たちのように結婚式の撮影の仕事をしたことがあったので、身近だったというのもありますし、事情を何も知らないで結婚式に行く人ってあんまりいないと思うんですけど、撮影を担当する人だったらどういう式が行われるかを知らなかったとしても自然なので、そこがまず発想の起点になっていて。

あと兄弟ね……なにかオブセッションがあるんですかね。なんとなく憧れみたいなものがあって、どういう関係性の人間を描くかと考えた時に兄弟を選びがちなんですよ。あと今回はキャスティングありきみたいなところもあって。結構早い段階で、九十九黄助さんがいいんじゃないかという話をしていて、吉田ヤギくんも『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』に出てもらって素晴らしかったので、W主演にするとしたら、「この2人が兄弟って設定だったらめっちゃいいな」と。

――九十九さんに実際に俳優として作品に参加してもらっていかがでしたか?

近藤:すごくよかったです。俳優として色々出演されていますけど、YouTuberとして認知されているので、youTube上での姿が先行してしまっていて。コミカルだったり悪辣だったり、極端なキャラクターを振られることが多かったような印象があるんですけど、もうちょっとフラットな主人公然としたキャラクターを見てみたかった。そのような話もした上で撮影に臨んだら、韓国映画の主演みたいな佇まいの美しさがあって。決めるところは決めるけど、冒頭のシーンのようなふわっとしたナチュラルな雰囲気も出せる。ちょっと闇のある雰囲気と、それを隠すぐらいの優しい雰囲気が両立しているっていうのは、演出していて面白かったですね。

――役柄についてどんなお話をされたんでしょうか。

近藤:どういう兄弟でどういう感じの人間かみたいな話はしたんですけど、そんなにディスカッションみたいなことって無かったような気がします。一回やってみましょうぐらいの感じで、もうできていた。それこそ、九十九さん自身が映画をたくさん観て、YouTuberとしてそれを言語化していく作業をたくさんやっている方なので、そういう中で理解できる部分があったのかもしれない。一番最初に撮ったのが、中盤で出てくる1人で撮っているビデオのシーンだったんですね。あの撮影の時に、作中でも使ってるテイクなんですけど、九十九さんが感極まってちょっと泣いてるんですよね。結構リアルに、あの主人公に感情移入されていたのかなと思いましたね。

――『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』でも吉田ヤギさんは強烈でしたが、彼との出会いは?

近藤:彼が一人でやっている“自宅演劇”というものを知って、観に行ったらすごかったんです。「この日のこの時間に来てください」と言われて、家のドアを開けたらもうやってる、みたいなすごいスタイルの演劇なんですよ。一人暮らしの20代男性が一人でいる瞬間を演じていて、「本当にヤバい人かもしれない、このまま暴れ始めたらどうしよう」みたいな緊張感があって。そんな迫真のお芝居をして、終わった瞬間に「終わりです、ありがとうございました」って。ああ、これがデフォルトなんだと。ただ尋常じゃなく演技が上手い人だったんです。そのあと別の演劇を観てもすごかったので、オファーをして『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』で映画初出演という形でしたね。

吉田くんは演じる役が毎回ちょっと気難しそうなキャラクターなんですけど、本人はものすごくほわほわしていて、ずっとニコニコしてる人なので、俳優として扱う難しさは全然なくて。逆に、俳優という自分の素材をどんどん使ってください、ぐらいのタイプの人ですね。九十九さんも吉田くんも、2人ともそういうデフォルトの人柄の良さみたいなものがベースにあるので、現場はタイトではあったんですけど、なんかすごくふんわりした空気で(笑)。平和でしたね。

先人たちとは違う“恐怖の手法”

――『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』では“ノーCG、ノー特殊メイク、ノージャンプスケア”を謳っていて、今回の作品でもその3つは無かったと思うんですが、使わないというこだわりがあるんでしょうか。

近藤:いやいやいや、こだわりはないですよ。「ジャンプスケアを否定してる人なんだ」って結構誤解されているんですけど、使わないと決めているわけではなくて、あくまで結果論というか。より予算があるメジャーな映画だったり、もっとがっちりお客さんを掴みにいかないといけない題材の映画の場合だと、ジャンプスケアは有効な手法だと思いますし、表現すべきものがCGや特殊メイクを使わなければ描けないものであれば使うべきだと思うので。

そもそもそういうのが嫌いだったり、演出上劣っているとか思っているわけでは全くないんです。ただ、少なくとも幽霊を描くということに関して言うと、CGを使って幽霊を描くと、よっぽど上手にやらない限りは「あ、CGっすよね」って感じになると思っていて。ジャンプスケアにしても、幽霊を描くときに使っちゃうと、その幽霊が目の前にいるっていう怖さとはちょっと違うことになる。生きてる人間だって急にドンと出てきたら怖いじゃないですか。『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』しかり『◯◯式』しかり、たまたま直近で撮ってるものが題材的に手法として選ぶべきじゃないものだったからというだけで、今後も一切使わないというようなドグマを持ってるわけではないです。

――そうだったんですね。ただこの3つの“ノー”に対してSNSで大きな反響があったと思うんですが、そのリアクションを受けて「こういうのが求められてるんだ」という印象はありましたか?

近藤:それは結構ありました。2025年という時代に改めてJホラーで世に出るとなった時に、清水崇さんや中田秀夫さん……海外で言えばジェームズ・ワンとか、リスペクトしていますけど、彼らと同じことをしようとしても、それらの劣化コピーとして扱われることになる。それに、恐怖表現をもっと前進させていくためには、一旦それぐらい極端に振った方がいいんじゃないかと。ジャンプスケアやCG、特殊メイクなどを使いながら恐怖の手法を発展させてきた先人たちがいるという前提の上で、一旦それらを全部使わないで、それでも怖いものを作るということにトライしている、というのが自分の個性にもなるだろうし。で、実際やってみると、世の中の人も割とそういうものを求めてもいた。

あと、たまたまですけど、大森時生さんがやっているテレビ東京のTXQフィクションとか、梨さんがやっているようなものだったりとか、映画以外ではむしろ、ああいう不気味さで怖がらせるものが結構メインストリームになっているので、それを映画でやっているみたいなところもあるのかなと。

――見事に実現されていますけど、その不気味さを醸成するのって難しくないんでしょうか。まだ何も起こっていない段階からどうしてこんなに不気味なんだろう、と思いながら観ていました。

近藤:難しいんですよね……。常に現場でモニターを見ることになるので、基本的に自分が画面で見て、自分で怖いと感じられるかどうか、ということはできるだけ考えています。「今この画面って別に怖くはないよな」と思ったら1回立ち止まって、カメラアングルが違うのか、人の動き方が違うのか、ちょっと考え直そうみたいなことをやっているんですけど、最近は結構ラフになってきて、直感的に「これでしょ」みたいな……いい加減になっているだけな気がするんですけど(笑)。それこそ、昔の『ほんとにあった! 呪いのビデオ』とか怖いものをいっぱい観てきたので、感覚値で“こういう風に撮るべき”っていうイメージが湧きやすい部分なのかもしれないですね。

――ホラー作品で探求したいことはありますか?

近藤:『リング』は公開当時、劇場から悲鳴が上がっていたなんていう話は聞きますし、僕も小学生の時に平山秀幸さんの『学校の怪談』を観て眠れなくなったこともあるので、それぐらい怖い思いができるもの、人にそういう体験を与えられるものを作るのが理想ではありますね。ただ、今の時代は特にそう簡単にたどり着けるものでもないとも思っているので、幅広く「ホラーって面白いよね」って思ってもらえるようにできれば。“ホラーって言うとお客さんが入らない”なんて話もありますけど、いやいや、面白いし、ホラーって言った方が「面白そう」「観に行きたい」って思ってもらえるようにしていければいいですね。

『〇〇式』
6月27日(金)下北沢K2先行上映開始 7月4日(金)全国順次上映

キーワード: