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異色ホラー映画『マローボーン家の掟』セルヒオ・G・サンチェス監督インタビュー 「色んなところに謎を仕掛けたかった」

2019.04.11 18:00 by

「綿密に構築する事が一番重要な事でした。出来るだけいろんなところに謎を仕掛けたかったからです」

セルヒオ・G・サンチェス監督は、自身が脚本も手掛けた『マローボーン家の掟』をそう語る。重大な“ネタバレ要素”のある今作は、「鏡を覗いてはならない」「屋根裏部屋に近付いてはならない」など、奇妙な“5つの掟”を守りながら暮らす4人兄妹を描いた物語だ。

サンチェス監督「一番初めに見たときは皆何も分からないけれど、もう一度そのシーンを観たときに、観客に小さな謎をどんどん見つけてもらえるようにしたかった。例えば、“カードが3枚あって、1枚だけ裏向きになっていて次の2枚が見えていない”、というような作りを心がけていました。映画を観た人たちもよく分かっていて、映画の中で見つけた謎を決して明かさないようにしてくれていました。それがとても嬉しい反応ですね」

兄妹たちは、殺人鬼である父親を殺したという衝撃の過去を持つ。穢れた過去を精算し、森の中の屋敷で再出発を図る兄妹たちだったが、屋敷のなかで奇妙なできごとが起こり始める――。ホラー映画であり、屋敷の謎を巡るミステリーであり、家族のドラマであり、ラブストーリーでもある。様々なジャンルを詰め込みながら、絶妙なバランスを保っているのが本作の魅力だ。

サンチェス監督:「一番描きたかったのは“個人”です。人は人生の中でいろいろな状況に立たされ、いろいろな感情が生まれますよね。幸せだったり悲しかったり、感動したり苦しかったりと、誰もがみなジャンルミックスな状態で生きている。ずっと同じ状況が続く人はいないと思うので、それをリアルに描きたかったのです。この映画の物語は、サスペンスだけれども、これをフェアリーテイルとして描きたかった。そして、マトリョーシカの人形をひとつひとつ開けていくように、いくつもの段階を暴いていく――そういう映画にしたかった。ラストのシーンをどのように感じるかは、観客しだいです。誰にも決められるものではありません」

本作は、思わず引き込まれる綿密に作り上げられた映像も魅力だ。兄妹たちの平和な日々を描いたシーンは絵画のように美しく、一方で、背筋に冷たいものが走るような恐ろしいシーンも存在する。美術と撮影にはかなりのこだわりがあったという。

サンチェス監督:アンドリュー・ワイエスの絵画を一つの指標にしました。ワイエスはニューイングランドの農場をたくさん描いている人なんですが、その中に描かれる風景は、幸せな時には楽しそうに見えるけれど、少しでも自分の中に不安があると、草がなびくことでも不安になる。そうしたことは人間みんなの中にあることだと思います」

サンチェス監督:「“鏡に映ったものを見るのが恐ろしい”とか、“外は明るいのに家の中に入ると暗い”とか、“それぞれの部屋に3つドアがある”とか、そうした細部に非常にこだわって、常に何か落ちつかない印象を与えるようにしていました。幸せな時は皆そこに集まって幸せなんだけれど、なにかをふっと凝視すると怖い、というようなところを家の中に作りました。あとは家自体が迷路になっているのも要素として使っています」

キャストの魅力

監督の思い描いた世界観を見事に体現したのは、注目の若手キャストたち。

弟妹たちを守ろうとする責任感の強い長男ジャックを演じたのはジョージ・マッケイ。ジャックの心の拠り所である、地元の心優しい女性アリーを『ウィッチ』『ミスター・ガラス』のアニャ・テイラー・ジョイが演じた。

サンチェス監督:「ジャック役のジョージは、私の中ではキャスティングの段階でいちばん疑問を抱いていた俳優でした。しかし彼の舞台を見に行って、“彼しかいない”と思ったのです。彼は規律正しくいつも周りに目を配る人。周りと一緒にどうアンサンブルを取っていくか、。自分の中でいろんなことを試してくれるのです。他のキャストは彼のことを非常に頼りにしていました。アリー役のアニャは、撮影当時は20歳だったのですが、非常に知的な感情表現ができる俳優で、声が非常に素晴らしいのです。今回出番が少なかったのですが、もっと一緒に仕事がしたいと思いました」

デリケートな年頃の次男ビリーを演じたのは、Netflixのドラマ『ストレンジャー・シングス』で人気に火がついたチャーリー・ヒートン。母を亡くしてから、それに代わるように立派に振る舞おうとする長女ジェーンを、リメイク版『サスペリア』への出演で注目の集まったミア・ゴスが演じている。

サンチェス監督:「チャーリーはもともと映画での演技経験はなかったのですが、本作の撮影の2週目の時に『ストレンジャー・シングス』の配信が始まり、昨日までは誰も知らない全く無名の俳優だったのに次の日には撮影現場に若いファンが集まってきました。彼自身も何が起こっているのかわからない様子でしたよ。ジェーン役のミアはまるで演技をしているのではなく、ジェーンが乗り移っているようでした。カメラが回っていない時でも常に四六時中ジェーンでいたことに驚きました。天候の関係で家の中でのシーンを1時間で撮影しなければならなくなったのですが、撮影してそのシーンのOKが出たときに彼女は泣きだしました。“天候が悪いことは過去の事になるけど、映画は一生残るものだから自分が失敗したらどうしよう、とすごく緊張した”と言いました。そこまで作品に入れ込んでくれることに感動しましたね」

劇中でも一際愛らしい末っ子サムを演じたのは、子役のマシュー・スタッグだ。撮影当時8歳だったマシューは、おばあちゃんと一緒に撮影に来ていたという。

サンチェス監督:「彼だけはまるで夏のキャンプに来ているみたいでした。年上の俳優たちに囲まれて、本当の兄弟のように過ごしていましたよ。彼には全く物語を教えませんでした。傷付きやすい年代なので怖い想いをさせたくなかったからです。彼のシーンは全て時系列に撮影しました。でも撮影をしていく中で彼の中でもちょっとずつストーリーが出来ていて、次のシーンはこうだよと説明すると“それはもうわかってるよ”と言われたりして、彼の中で彼なりに物語を生きるということが出来上がっていました。一番印象に残っているのは、誰かがマシューに“これが君の最後のシーンだよ”と告げたときに、撮影が終わって皆と離れるのが嫌で泣き出した事です。彼は撮影をすごく楽しんでいました」

本作のプロデューサーであるJ・A・バヨナ監督の『永遠のこどもたち』『インポッシブル』など様々な映画の脚本を手がけてきたサンチェス監督。本作で長編映画初監督となったが、その感想をうかがった。

サンチェス監督:「私は一度も“脚本家になりたい”と思ったことはないのです。常に監督をやりたいと思っていましたので、とても楽しかったし、まったく苦労には思いませんでした。なぜかというと、脚本を書くというのは独りの仕事だけれど、監督として撮影をするというのは、本当にみんなと一致団結してできるものだからです。人のために脚本を書くというのは、まるで招待されていない誕生日会のケーキを作るようなものですから」

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