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『LAMB/ラム』監督インタビュー 日本での“アダちゃん”人気に歓喜 「アダを可愛いと言ってもらえるのはとても嬉しい」

2023.01.06 by

この記事は1年以上前に掲載されたものです。

2022年9月に日本で劇場公開され、不穏なあらすじと愛らしいキャラクターが話題になり、ロングランヒットとなったネイチャー・スリラー『LAMB/ラム』。本作が早くも1月1日よりPrime Video独占配信となった。日本での反響を受けて、本作を手掛けたヴァルディミール・ヨハンソン監督が来日し、直接お話を伺うことができた。

「祖父母が羊農家をしていて、そこで羊たちと長く過ごしていたので羊は身近な存在でした。今考えると、この物語は羊以外では絶対に作れなかったと思いますね」

アイスランドの大自然のなかで羊農家を営む夫婦マリアとイングヴァル。ある日ふたりは、羊が産んだ“羊ではない”奇妙な子供を見つけ、“アダ”と名付けて我が子のように育てることにする。しかし、その子供は一家に破滅をもたらすことになる――。頭は羊そのものだが、羊と人間のハイブリッドのような存在であるアダ。映画では、マリアとイングヴァル、彼らの家の犬と猫、そして新たに家族となったアダの日常を映していく。アダの姿を出し惜しみせずにたっぷり見せているのが印象的だ。

超自然的な、ちょっとシュールな要素が1点だけ入っているんだけど、それが普通に扱われているような世界観が元々好きなんです。アピチャッポン・ウィーラセタクンの『ブンミおじさんの森』(10)とか、カルロス・レイガダスの『闇のあとの光』(12)、メキシコ映画の『触手』(16)のような。この作品もそういう世界観にしたかった。彼らの日常に普通に彼女(アダ)がいるんだから、それは普通に出てくるよね、という扱いなんです。観客に“予算的にあんまり出せないんだな”みたいな風には思われたくない気持ちもあったしね(笑)。でも、アダをどこでどう出すかっていうのはすごく考えたし、毎回アダが出てくる時には何か新しいことをしているようにして、同じことを繰り返させないというのは意識していました」

アダは奇妙ではあるもののなんとも愛らしい存在で、日本では宣伝キャラクターとして人形の“アダちゃん”が稼働したこともあり、映画の公開前から「アダちゃんが可愛い」と評判になった。アダをあしらったグッズも多数発売され、完売が続く人気ぶりだった。この日本の観客からの熱烈な反応に対し、監督自身はどう思っているのかを聞いてみると、ホクホク顔で答えが返ってきた。

とっても嬉しいです! 映画の製作前、アダのアイデアを人に話すと“気持ち悪い”と言われることもあったんですよね。でも僕は“そんなことない、めちゃめちゃ可愛いじゃないか!”と思っていたので、日本でそういう風に受け止められているのはとても嬉しいんです。実際に、お手紙とかで“可愛い”と言ってもらったり、“アダの人形が欲しい”と言ってくださる方もいたり……。ムーミンとかハローキティの友達としても良さそうじゃないですか?(笑)

画像:アダちゃんを抱いてニッコリのヨハンソン監督

この物語はこうして生まれた

アダというキャラクターがどのように生まれ、本作の物語はどう作られていったのか。「当初はもっとダークで重い話になるかと思っていました」と監督。映画のインスピレーションを探すなかでたどり着いたのは一枚の絵画。19世紀の画家アウグスト・フリードリヒ・シェンクによる「苦しみ」という動物画だったそうだ。どんな絵か見てみると、血を流して倒れ込んでいる子羊と、その子を守るように佇んでいる親羊がおり、その周りをカラスたちが囲んでいる。親羊の表情は、とても悲痛なものに見える。『LAMB/ラム』に同じシーンがあるわけではないが、本作の様々な要素が凝縮されているように思える。

アウグスト・フリードリヒ・シェンク「苦しみ」:https://g.co/arts/78b8z3BxMfDn6Wm77

そこから更に、自然にわいたインスピレーションを結びつけて物語を作っていったことを明かしてくれた。映画のアイデアを練るために作ったムードブックには、最初からアダの姿があったという。

「アダは最初からいたんですよ。ムードブックの1冊目を作った時に、アダもいたし、農家のカップルもいた。不思議なことに、一家がテレビでハンドボールを観戦しているシーンもすでにそこに入っていました(笑)。インスピレーションに文脈はなく、後から繋いでいくということをしていった。共同脚本のショーンと話していく中で、アダというキャラクターがまずあって、そのキャラクターに対して観客の方に思い入れを持ってほしいと考え、そうして僕たちはこの作品の物語を想起したんです」

人間と動物を平等に描く

最初のインスピレーションとなった絵画が動物目線のドラマを描いていることとも繋がるが、監督も本作では動物の視点を大事にした。本作に登場する動物たちの表情からは、その感情がありありと伝わってくる。アダに関しても言葉は発しないが、彼女の心情が伝わってくるシーンが数々ある。

動物の視点や感情も表現したかったんです。もともと信じていることの一つとして、生き物というのは人間よりも先に何かを察したり、感知する能力があると思っているんです。そういった彼らの感覚を入れたかった。それに、この映画にはたくさん生き物が登場するのに人間の感情だけ描くのもアンフェアな気がしたんですよね。

撮影に入る1年前に、実際の羊農家に仕事をもらって、そこで羊の写真や動画をエンドレスで撮影したんです。それこそミニドキュメンタリーが作れるくらいにね。それを見ていると、普通の人が見ても違いが分からないくらいではあるんだけど、自分には「このときの羊は幸せそう」とか「これは辛そう」だとかが見えるようになったんですよ。そうやって羊の表情と感情を繋げる、こういう顔だったらこういう気持ちなんだろうというふうに理解していく作業をやっていました。

アダについても、企画の段階で“喋らせようか”というアイデアも出たこともあったんだけれど、最終的には喋らないことにした。これは正しい判断だったと思います。私たちって、生き物を見ていて感情を勝手に読み取っちゃうことってあるじゃないですか? それをこの映画の登場人物たち、生き物たちでもできたらすごく美しいなと思ったんです。表情やボディランゲージを見て、“今こう感じているのかな”って察していく。人間の俳優たちのセリフも極力抑えているので、全く同じなんですよね」

『LAMB/ラム』
Prime Videoにて独占配信中
配給:クロックワークス
提供:クロックワークス オディティ・ピクチャーズ

Blu-ray&DVD
3月3日(金)発売
発売元:クロックワークス
販売元:ハピネット・メディアマーケティング

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