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ロイド・カウフマンと毒々モンスター、東京へ行く!
『悪魔の毒々モンスター』シリーズ、『キラーコンドーム』などで人気を博し、おバカでグロくて下品で笑えつつも、強烈に皮肉の効いた傑作映画を量産してきた伝説の映画制作会社『トロマ』。そんな『トロマ』の顔であるロイド・カウフマン社長が、この度十数年ぶりの来日!
カウフマンが登場したのは、12/18に行われた『ファーザーズ・デイ-野獣のはらわた-』トーキョー・プレミアです。カナダの映像集団“アストロン6”が手がけたこの作品はトロマの全額出資によるトロマ作品。カウフマンはプロデュースのほか、映画の後半で“神様”役としてカメオ出演もしています。
舞台挨拶には、作品に関係のない“毒々モンスター”も登場。司会は江戸木 純さん、通訳は元トロマ所属で映像作家の津野 励木(ツノ・レイキ)さんが務めました。
久しぶりに日本のファンの前に姿を現したカウフマンは、「ミナサンコンバンワ!安堂ロイド デス。じぇじぇじぇー!今でしょ!!倍返しダ!!」とのっけからぶっ放す元気ぶり。
その後、まじめに質疑応答を試みるも、カウフマンは「レイキと僕はホモセクシュアル」「ファーザーズ・デイの制作費は42億円」など嘘ばかりを言い放ち、「映画業界は嘘の世界だから、嘘を答えることが真実なのさ!」と微笑んでみせるのでした。
ロイド・カウフマン インタビュー
そして、光栄にもカウフマンさんにインタビューをさせていただくことができました。ご自身のルーツ、“アストロン6”について、トロマの美学など、いろいろ語ってくれましたよ。
江戸木 純さん、カウフマンさんの奥様であるパットさんにもご同席いただきました。
聞き手:ホラー通信 レイナス
通訳:津野励木さん
記者:まず、今回の来日について教えて下さい。
ロイド:日本には17日に来たんだ。先日シンガポールの美術大学に講義をしに行ってね、それを経由して日本に来たんだ。友だちの映画『ファーザーズデイ』が上映されるというんで、今回駆けつけたというわけだ。
記者:アストロン6は友だちなのですね(笑)。カウフマンさんは、『ファーザーズデイ』のプロデューサーとしてどんなことをされたんでしょうか。
ロイド:何をしたかって?(笑) すごくいい質問だ! 僕はプロデューサーとして、彼らに “金” を与え、そして “自由” を与えた。クリエイティブな面では、ごくわずかだが脚本も手伝った。だが基本的には彼らの好きなように作品を作ってもらったんだ。
記者:アストロン6の魅力はどんなところでしょうか。
ロイド:第一に“トロマのファンだ”というところだね!
あとは、ごく一般的な映画監督よりもオリジナリティがあったし、映画製作に対するやる気が違ったんだ。私が主催している“トロマダンス映画祭”に彼らがショートフィルムを出展していて、そこで彼らの才能を見出したんだ。トロマはこれまでも多くの才能を発掘しているよ。サウスパークを作ったトレイ・パーカーもその一人だ。アストロン6も彼のように才能を開花させるんじゃないかな。
作品のルーツとトロマの“ごった煮”の美学
記者:カウフマンさんが映画制作を始めるきっかけはどんなことだったのですか?
ロイド:本当は教師になるつもりでイェール大学に通っていて、映画を作るつもりはなかったんだよ。大学のときのルームメイトが映画オタクでね、彼の影響でチャップリンや溝口監督などのたくさんの名作映画を見たんだが、そうしている内に映画製作の道を志すようになった。それもハリウッドに行くのではなく、インディペンデント映画の道へね。
僕が映画製作にのめりこんだ60年代には、『スター・ウォーズ』なんて映画はまだ無かった。だから僕の作品のベースにあるのはクラシック映画さ。作品を見てもらえればそれが分かると思うよ!
記者:そ、そうなんですか?
ロイド:僕の映画にはコメディやホラーや色んな要素が入っているけどね、それぞれの要素はクラシック映画の影響なのさ。アストロン6の『ファーザーズ・デイ』もコメディやSFなどのいろんな要素が入ってるけれど、それらが合わさってイイ感じの“トロマ色”が出ていると思うよ!
記者:『ファーザーズデイ』拝見しましたが、本当にたくさんの映画の面白い部分を詰め込んであるかのようで非常に面白かったです。
ロイド:うむ。……でもね!それがいちばん難しいんだ。
『キャビン・フィーバー』や『ホステル』なんかはストレートなホラーにジャンル分けされるだろう?しかしトロマの映画はホラーもSFもコメディも全部が詰まっている。そういった作品はジャンル分けが難しく、売り込みがしにくい。となると買い手もなかなかつかないんだ。だから毎度とても苦労はするんだけれど、だからこそのカルト映画であり、それを貫くからこそのトロマのオリジナリティなのさ。
オスカーを獲るよりもファンに「おもしろかった」と言ってもらいたい
記者:トロマの美学はやはり“オリジナリティ”になるのでしょうか?
ロイド:そうだね。『チキン・オブ・ザ・デッド』(日本でも2013年に劇場公開)という映画を作ったが、あれはホラーもミュージカルもまざった冒険的な作品だった。とても売りにくい映画だったわけさ。だが、「それでも作ってやる」という気概が大事なんだ。
記者:『チキン・オブ・ザ・デッド』、とても大好きな作品です! 劇場に二回観に行きましたよ。
ロイド:オー!ありがとう!イエ~イ!(拍手) アカデミー賞でオスカーは獲れなくても、そうやってファンの人に「おもしろい!」という一言をかけてもらうことのほうが、僕にとっては大事なことなのさ。
トロマのファンだったレイキも、かつて給料が出るわけでもないのにニューヨークまでやってきて、『リターン・トゥ・ニューケム・ハイ』という作品の撮影に参加してくれた。そういったファンがいてくれることがトロマの誇りでもある。芸術というものは心からくるものだよ。「いいものを作る」という気持ちが大事さ。
記者:『チキン・オブ・ザ・デッド』は日本のファンもとても楽しんでいましたよ。劇場は笑いで溢れてましたし、最後には拍手が起こっていました。
ロイド:グレイト! 伝えてくれてありがとう!
パット:新作の『リターン・トゥ・ニューケム・ハイ』も、きっとみんな気に入るわよ! とってもワンダフルだから!
ロイド:『リターン~』はMOMA(ニューヨーク近代美術館)でのスクリーニングがあって、そのあとニューヨークで上映されるんだ。この作品は『キル・ビル』みたいに2作に分けたビッグな野心作だよ!
記者:とても楽しみです! 日本での劇場公開を願っています。
トロマを支えた江戸木 純さんに感謝を!
ロイド:最後に君のウェブサイトに絶対このニュースを載せておくれ。まだ誰にも言っていないよ! ジュン・エドキをインディペンデント映画に貢献した人として、トロマから表彰したいんだ。
そんなカウフマンさんの発言により、江戸木さんもびっくりの突然の表彰式スタート。ニューヨーク州でフィルムコミッショナーを務めていたというパットさんが、江戸木さんに“Official Troma Diploma”を贈りました。今年3月の日本での『悪魔の毒々モンスター』『チキン・オブ・ザ・デッド』劇場上映企画や、今回のアストロン6作品の上映も江戸木さんの配給プロデュースによるもの。トロマファンからも感謝の意を伝えたいですね。
ロイド:ドーモアリガト、レイナス! ジュン・エドキ! そしてファンの皆さんにも、“トロマを支えてくれてありがとう”! じぇじぇじぇ!
記者:今回は本当にありがとうございました!
アカデミー賞を獲ることよりも、売り込みやすくお金になる映画を作ることよりも、ただひたすらに“おもしろい映画”を作ること、“おもしろい映画”を作る才能を育てることにこだわるロイド・カウフマン。ジョーク交じりに話してくれたカウフマンでしたが、作品やご自身の信念について語るときの目は真剣そのもの。これからも多くの作品を世に放ってくれることを願います。
そんなカウフマンが見出したアストロン6、要注目ですよ! 今回プレミアを行った『ファーザーズ・デイ-野獣のはらわた-』は来年1月11日からの公開ですが、12月21日からは『マンボーグ』が劇場公開です。
“おもしろい映画”を観たかったらカウフマンを信じろ! そして劇場に走れッッ!
アストロン6の進撃! 公式サイト:http://astron-troma.com/index.html
おまけエピソード:カウフマンはファンに優しい
記者がトロマファンと知るや、ポスターやご自身のポートレートに記者の名前入りでサインをしてプレゼントしてくれたカウフマン。インタビューも終え、お礼を言って大満足で帰ろうとしたところ、そっと駆け寄り「そうだ、これもあげよう」とトロマ作品の缶バッヂを手に握らせてくれました。ファンに優しすぎるよ、カウフマン先生!