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日本のホラーがヒントに? 共依存ボディホラー『トゥギャザー』監督インタビュー 「黒沢清監督や伊藤潤二の漫画が大好き」

2026.02.06 by

「80年代のボディホラーがねっとりした質感ならば、この作品は乾いていて痛々しいものにしたい」

目玉が、唇が、腕が……カップルの身体が“くっついていく”様を映したポスタービジュアルが衝撃を与えたボディホラー『トゥギャザー』がいよいよ公開。交際期間が長くなり、ときめきが薄れ、お互いの気持ちに明確なズレを感じつつも、長く一緒にいすぎたが故に別れる決心もつかない……。そんな倦怠期のカップルに肉体変異が起こり、文字通り離れたくても離れられなくなってしまう。実生活でもカップルのデイヴ・フランコアリソン・ブリーが、長い恋愛関係のリアリティが感じられる脚本に惚れ込み、主人公カップルを演じた。

本作を手掛けたのは、オーストラリアの新鋭マイケル・シャンクス監督。長編デビュー作ながら、あっと驚くようなアイデアをリアリティのある視覚効果で堂々映像化。それと同時に、80年代ボディホラーへの愛も多分に感じさせる作品に仕上げている。シャンクス監督に、目指した“ボディホラー像”やホラージャンルへの愛について伺った。


メイキング写真

――『トゥギャザー』、今年のベストホラーというぐらい楽しませてもらいました。ラブストーリーであり、ボディホラーであり、ジャンプスケアもあり、ものすごく怖いのにユーモアもあります。この色んなものがミックスされたバランスは最初から想定できていたのでしょうか。

マイケル・シャンクス監督:色んな要素のバランスを感じ取ってもらえることは本当に嬉しいことです! 僕はもともとコメディを作っていたんですが、この作品は手に汗握るシリアスなホラー映画にするつもりでした。でも物語を書き進めるほど、どんどん不条理で荒唐無稽な状況に発展していったんです。そのなかで「ああ、この物語にはコメディの要素があるんだ」と気付き、抵抗をやめてその流れに身を任せるべきだと思いました。

でも同時に、一組のカップルの真摯なドラマでもあります。彼らは、別れるかそうでないのかの岐路に立たされている。僕自身もパートナーとの関係が17年続いていますから、自分の経験や感情も盛り込んで、“本物”だと感じてもらえるものにしたかった。

しかし一方で、ホラージャンルへの執着から、とにかく怖くてクレイジーな要素を詰め込もうとも思っていたのです。僕はこれまでホラーを撮ったことがなかったので本当にワクワクする試みでした。そうしたすべてのホラー要素を剥ぎ取っても、この映画が恋愛ドラマやロマンティック・コメディとして成立するバランスになっていれば嬉しいですね。

――監督は別のインタビューで、この映画の視覚効果について「80年代のボディホラーは好きだけれど、当時のベタベタした質感は避けたかった」とおっしゃっていましたが、本作で追求しようとしたボディホラー像はどんなものだったのでしょうか?

シャンクス監督:まず、ボディホラーは“我々の中に内在する恐怖”であるという前提があります。ナイフを持った誰かが追いかけてくるような“外側からやってくる恐怖”ではなく、自分自身や愛する人の身体が朽ちていったり変化していくという恐怖ですね。誰しもが抱えているパーソナルなホラーなんです。

そして僕は70~80年代のボディホラーが大好きです。『エイリアン』や『遊星からの物体X』、『ZOMBIO 死霊のしたたり』や『ソサエティー』のようなキャンプな作品。そしてもちろん、デヴィッド・クローネンバーグ監督作品のすべてもね。『ザ・フライ』なんて一際傑作だし、実はかなりロマンチックでもありますよね。80年代のあのドロドロ、ベタベタした質感は素晴らしいんだけれど、現代の映画があの技法を取り入れると、時々皮肉っぽく感じられてしまうんです。

本作にもユーモアはあるけれど、それが生まれるのはキャラクターや状況からであって、ビジュアルの部分はより現代的でリアルに扱いたいと思いました。メイクや視覚効果、特殊効果のスタッフたちには、80年代ホラーがねっとりした質感ならば、この作品は乾いていて痛々しいものにしたいと伝えました。イメージとしては……私の叔父との握手ですね。子供の頃、すごく体が大きくて力強い叔父と握手した時、手の骨がまるで傘が壊れるようにポキポキと折れてしまうような感覚があったんですよ。手がぶつかり合う、骨が折れる、あの乾いた恐ろしい感覚。あれをこの映画で再現したいと思いました。そうした、視覚的にユニークなアプローチがしたかったのです。

――まさしく、80年代ボディホラーを思わせる題材を、現在ならではのリアルな映像で作っているところがこの映画の好きなところです。シャンクス監督の短編作品『REBOOTED』(※)をYouTubeで拝見しましたが、レイ・ハリーハウゼン的なストップモーションの骸骨兵士のキャラクターが現代のハリウッドで仕事を探すというシニカルな内容でしたね。やはり、SFXやVFXといった映像技術の変遷に強い関心があるのでしょうか。

シャンクス監督:映画作りにおいてはキャラクターの創造や彼らの感情の旅路を形作っていくことが何よりも重要ではあるけれども、技術的な側面も大好きですね。興味を持ったきっかけは『ロード・オブ・ザ・リング』のメイキング映像でした。僕は12歳までニュージーランドに住んでいましたから、いわば聖地にいて、そこで人々がこんなクリエイティブなことしていたんだと気付かされたんです。VFXだけでなく、実写の特殊効果やミニチュアに魅了されました。映画本編を観るのと同じくらい、メイキング映像を観て「どうやって作ったんだろう」と考えるのが好きでした。

だから『REBOOTED』を作った時は、それらの技術を称えながら、その世界に自ら飛び込む機会にもなったんです。ストップモーションアニメーターを雇い、人形やラバースーツを使い、ハリウッドの特殊視覚効果の歴史に浸ることになりました。もし今後も映画を作り続けられるなら、脚本やストーリーテリングを愛するのと同じくらい、実写効果やデジタル効果に囲まれて、それらを心ゆくまで堪能したいですね。実は今回の映画の中で、行方不明のハイカー役を自分でやったんです。そのために特殊メイクを施されることになり、全身がグチャグチャの液体まみれになりました(笑)。そうやって映画の技術者たちと過ごす時間は本当に楽しいものなんです。

※『REBOOTED』- https://www.youtube.com/watch?v=1Rkn6rnsgc4

――ボディホラー以外のホラーの好みも伺いたいです。本作には『呪怨』のようなシーンがありましたね。日本のホラーもお好きなのでしょうか?

シャンクス監督:『呪怨』『ザ・リング』――僕が観たのはアメリカ版なのですが、もちろん好きです。でも一番のお気に入りは黒沢清監督の『CURE』ですね。観ているとまるで催眠をかけられているような感覚になり、不気味なほど心にこびりつくんです。映画のペース配分や、緊張感を生み出す不規則なリズムをもった編集手法について、自分の考えを大きく広げてくれました。彼の『Cloud クラウド』も素晴らしかったし、中編ホラー映画『Chime』はさらに衝撃的でした。論理的に完全に理解できているとは思わないけれど、観てからずっと頭に残り続けているんです。そして、今回の映画に影響を与えたのは『回路』ですね。ミリー(アリソン・ブリー)がガラスの壁に激突して踊るように動くシーンがありますが、あそこで私は『回路』の幽霊の動きを思い浮かべていました。美しくも不気味な、あの踊りのような動きをイメージしていたんです。

映画だけでなく、僕は日本の文化の大ファンなんです。高校時代に映画版の『バトル・ロワイアル』を観て大きな影響を受けたのですが、小説も買って読みましたし、作家で言えば村上春樹も好きです。漫画家の伊藤潤二も大好きで、彼の作品はこの映画の一部のビジュアルで大きなインスピレーションになっています。ティム(デイブ・フランコ)の母親の顔がちょっと狂ったように見えるシーンがあるんだけど、あの視覚効果は自分で担当していて、伊藤潤二的に表現しようとしたんです。白黒で描かれた二次元の絵を実写映画に落とし込むのは奇妙な試みでしたね。

――この映画が長編デビュー作だと知って驚きました。元々はコメディを作っていたとおっしゃっていましたが、本作を作るまでにどんな活動をされていたのでしょうか?

シャンクス監督:初めての作品は、高校時代に映画祭のコンペティション用に作った短編映画です。その短編が優勝してゲームサイトでウェブシリーズ化され、1年半作り続けました。内容はビデオゲームのパロディで、出来は良くなかったけど「もしかしたら自分は結構これに向いてるかも」って思うようになったんです。その後YouTube向けに動画を作るようになって、その活動が目に留まって助成金がもらえるようになり、ひたすら制作を続けました。そうして、編集や視覚効果、作曲など制作プロセス全体の技術を磨いていったんです。

でも僕はYouTuberではなく映画作家になりたかった。YouTubeでできることはやり尽くしたと感じたので、映画を作るためにいくつか脚本を書いたんですが、それがハリウッドで注目され始めたんです。それがきっかけでデイヴ・フランコと会うことになり、既に書き上げていた脚本を渡しました。彼は脚本を気に入ってくれ、彼の妻のアリソン(・ブリー)と二人で「私たちが出演してもいい? 一緒に演じてみたいんだけど」と尋ねてきたんです。私は「もちろん!」と答え、突然この映画が形になりました。本当に本当に幸運でした。映画を作り始めてから17年になるけれど、そういうスキルを身につけ、“自分は出来る”という実感が持てるまでには長い時間がかかりましたね。

『トゥギャザー』
2026年2月6日(金) より TOHO シネマズ 日比谷他ロードショー

配給:キノフィルムズ

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