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俳優として活動する一方で、脚本家として『ソウ』『インシディアス』といった人気シリーズを生み出し、近年は『インシディアス 序章』『アップグレード』で監督としてもその才能を発揮しているリー・ワネル。そんなワネルがユニバーサル・ホラーの古典的名作をリメイクした最新作『透明人間』が7/10よりいよいよ公開。
ワネル版を観る前に、これまでの『透明人間』映画を振り返ってみよう。
『透明人間』(1933)
原題:The Invisible Man
ユニバーサル・ホラー『フランケンシュタイン』『フランケンシュタインの花嫁』も手掛けたジェームズ・ホエール監督による、87年前の傑作。H・G・ウェルズの小説「透明人間」を原作としている。
実験薬モノケインで透明化した科学者グリフィンが、万能感を暴走させ、狂気に飲み込まれていく。包帯ぐるぐる巻きの顔にサングラスをかけ、ガウンを羽織った不気味で優雅なスタイルがアイコニック。昔の映画と侮るなかれ、今のようなCGがない時代に作られた映画だからこそ、“透明の何かがそこにいる”映像表現が異様に不気味に感じられる。
透明人間となるグリフィンを演じたのはクロード・レインズ。その顔をようやく見られるシーンはあまりに哀しい。変貌してしまったグリフィンに寄り添おうとする婚約者フローラを演じるのは、『タイタニック』の年老いたローズ役でも知られるグロリア・スチュアート。
『透明人間』(1992)
原題:Memoirs of an Invisible Man
透明化の研究とは無関係なビジネスマンが、アクシデントで透明人間となってしまう設定がユニーク且つ悲劇的なこちらは、『ハロウィン』『遊星からの物体X』のジョン・カーペンター監督作。ウェルズではなくH・F・セイントの小説「透明人間の告白」を原作とし、コメディ俳優チェビー・チェイスが主演を務めている。
とある研究所でパソコンにコーヒーをこぼすという超・凡ミスのために大事故が発生し、建物が部分的に透明化。一眠りしていたために事態に気付かなかったビジネスマンのハロウェイが、透明人間となって目を覚まし、パニックに陥る。誰にも見えず、自分にすらその姿が見えない男の悲哀と恋の行方を描いたコミカルなSF。
ハロウェイと心を通わせ、彼の力になろうとする健気なヒロイン アリスをダリル・ハンナがキュートに好演。透明化したハロウェイを利用しようと執拗に追う憎たらしいCIAをサム・ニールが演じている。
『インビジブル』(2000)
原題:Hollow Man
アラサーあたりの“マイ透明人間”と言えばこれかも? 『ロボコップ』『トータル・リコール』のポール・バーホーベン監督によるスリラー。生物の透明化と復元を研究するチームの中で、ケヴィン・ベーコン演じる科学者セバスチャンが自分の体を使って実験を行うが、もとの姿に戻れなくなってしまう。
透明でいることのストレスとチームへの不満をつのらせ、冷静さを失っていくセバスチャンが、“見えない”ことを利用してやりたい放題。エロ方面にも容赦なく暴走する、ゲス度高めな透明人間。先の2作にいたような“透明人間に寄り添うヒロイン”は登場せず、チーム内に元カノとその新恋人がいるという状況がなかなか不穏。
進化したSFXはかなり見モノ。皮膚、筋肉、内臓、そして骨と、徐々に透明化していく過程が詳細に描かれ、度肝を抜く。クリスチャン・スレーターが透明人間を演じる『インビジブル2』という続編もある。
『透明人間』(2020.7.10公開)
原題:The Invisible Man
新たな『透明人間』は、透明人間が主人公ではなく、その被害者となる女性を主人公に据えている。
天才科学者で富豪の恋人 エイドリアンによる激しい束縛に恐れをなし、彼の元から逃げ出したセシリア。その後、エイドリアンが自殺し、彼女に莫大な遺産を残したことを知らされるが、彼の人となりをよく知るセシリアはその死を疑っていた。そして、彼女の不安が的中したかのように、彼女の周囲で“見えない何か”の気配が感じられるようになるのだ。
技術が進歩した今改めて描かれる、「“透明人間”がもし実在するとしたら?」というリアリティ、そして「もしその“透明人間”が自分に強く執着している人物だったら?」というサスペンス要素が極めてスリリングに描かれ、主人公とともに観客をも心神喪失させていく。セシリアを演じるエリザベス・モスの狂気の名演にも要注目だ。
映画館もコロナ対策のために一席空けになっているこの頃、誰も座っていないとなりの席が、妙に恐ろしく感じられるかも? 手に汗握って、どうぞこのスリルをお楽しみあれ。
『透明人間』
7月10日(金) 全国公開