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『サクラメント 死の楽園』のタイ・ウェスト監督と、個性的で良質な作品で注目を集めているスタジオ・A24がタッグを組んだエクストリーム・ライド・ホラー『X エックス』が7月8日より公開。
1979年のテキサスを舞台に、映画制作を行う3組のカップルが味わう恐怖を描いた本作。野心溢れる彼らは、芸術性のあるポルノ映画を作ることでドル箱を狙っており、撮影のために借りた田舎の農場を訪れる。しかし実は、農場の持ち主は史上最高齢の殺人鬼夫婦だった――。
昔ながらのスラッシャー映画を、ウェスト監督が映画愛を込めて再構築した本作は、観る者の先入観を試すように予想を覆す展開で突き進んでいく。全米で公開されるや、ホラー小説の帝王スティーブン・キング、『ラストナイト・イン・ソーホー』のエドガー・ライト監督らが圧倒的支持を表明した。
今回、ウェスト監督がインタビューに応じ、A24との協働や、意外な展開を迎える作品の狙い、悪役のインスピレーションなどについて語ってくれた。
“観ている映画”の裏側について想像を膨らませてほしい
――今回、A24と作品を作ることになったのは何故だったのですか?
ウェスト監督:A24とは「何か一緒にやりたいね」という話をずっとしていたんです。ただ、私はもう5年ほど映画を作っていなかったし、ホラー映画を作りたいという気持ちもなかなか起きなかった。彼らと協働したかったけれど、いいアイデアが浮かばない状態が続いていました。それから、私は誰にも言わずに密かにこの作品を書いて、最初に彼らに送りました。「難しいかもしれないけど、読んでみてもし気に入ってくれたら話し合おう」と。それからすぐに「かなりブッ飛んだ内容だから少し考えるよ」と言われ、数日後には「是非やりたい」という返事をもらいました。A24は本当に素晴らしいスタジオで、映画製作者を尊重してくれるし、協力的なんです。私が映画を作りたいのはこのスタジオだけだったんです。もし彼らがノーと言っていたら、この映画を作っていなかったでしょうね。
――映画監督という立場だと、制作上で色々と注文をつけられたりということがあると思うんですが、A24は監督の意思を尊重してくれるわけですね。
ウェスト監督:映画製作の場ではプロデューサーや制作会社が必ず介入しますし、自分たちのアイデアを出すものです。でもA24は、アイデアは出してくれるけど、使うか使わないかは監督が判断していい、というスタンスでいてくれます。無理強いされることはないんです。
――『X エックス』は、“70年代”という舞台、映画制作をしているキャラクター、高齢の殺人鬼と、色んなポイントがある作品ですが、どういう地点からスタートしてこのストーリーが出来上がったのでしょうか。
タイ・ウェスト監督:まず、映画制作に関する映画を作りたかったというのが始まりでした。登場人物が映画を作る姿を作品の中で見せることによって、観客は自分が観ている映画の裏側についても想像を膨らませてくれるのではないか、“映画”というものに対してより敬意を払ってくれる流れが生まれるといいなと思いました。私自身は本当に映画作りが好きで、映画制作者たちが作品に注ぎ込む技術や技巧にすごく敬意を払っています。そういうところを人々に見てもらいたかった。
ただ、主人公たちが作るものをホラー映画にはしたくなかったんですね。あとハリウッド系の映画も、私自身はそれほど経験がないので選びませんでした。それでなぜポルノ映画にしたかというと、1970年代のポルノ映画というのは、セックスシーンだけではなくて、普通の映画と同じようにストーリーを描いているものが多いんです。なので、それを作る過程を見せることで、映画制作というものをそのまま見せることができると思いました。それと、ホラーとポルノっていうのは似ているところも多いんです。ともにアウトサイダー的なジャンルであって、ハリウッド映画のような資金やコネも必要としません。インディペンデントで作れるジャンルです。なので、そういう意味でもホラーとポルノを組み合わせるのは相性がいいと思ったんです。
誰もが『悪魔のいけにえ』のような展開を想像しますよね
――今回の映画は『悪魔のいけにえ』のようなものになるのかなと思って観ていると、意外な展開が次々と待ち受けています。観客のホラー映画に対する先入観を裏切っていく狙いでしょうか。いかにもファイナルガールになりそうな子など、女性のキャラクターたちが見せる意外性もすごく面白かったです。
ウェスト監督:スラッシャー映画なんだけれど、通常のスラッシャー映画よりも観客の心に深く響くものを描きたいというのが目的にありました。1970年代のテキサスが舞台で、バンに乗って僻地に行くというと、やっぱり誰もが『悪魔のいけにえ』を想像するだろうし、そこから逃れることは出来ませんよね。逆にそれを利用することにしました。観客に「この物語の行き先は分かっている」と思わせておいて、映画が始まって15分くらいで、「ちょっとこれは違うぞ」という風に感じ始める。過去のスラッシャー映画の再現ではないと気付いたことで、残りの時間をハラハラしながら観てもらえるのではないかと思いました。女性のキャラクターに関しても、ホラー映画で見慣れた“典型的な女性”を登場させておきながら、観客の想像するような行動を取らせずに、違う方向へと持っていくことで現代的に女性を描くというのが私の狙いです。
――ホラー映画として予想外の展開を見せつつ、様々なホラー映画のオマージュシーンがあるのも面白いところですね。監督としてオマージュにはどんな想いを込めていますか。
ウェスト監督:今回の映画は“映画作り”へのラブレターでもあるんですね。私自身映画が大好きですし、映画作りを大切にしてきた過去の名作を観て影響を受けて育ってきたので、そういう映画制作者たちと作品に敬意を込めて、オマージュを散りばめています。観客にも、それらの名作に目を向けてほしい、そして“映画作り”というものを知ってもらいたい、という想いもありますね。
――劇中映画の監督であるRJというキャラクターは、ポルノを撮ろうとしているけれども、単なるポルノではなく芸術性を取り入れたいと奮闘しています。ウェスト監督も今回ホラージャンルでハイブローな作品を作りたいという意識があったそうですが、RJとウェスト監督には何かリンクする部分があるのですか?
ウェスト監督:あんまり似てないことを願っているけど(笑)、似ている部分はあると思います。彼がどれだけ良い映画を撮れるかには、おそらく限界がありますね。でも彼はなんとかその上を目指そうとしている。たかが知れているけど、彼らのチームは最高のものを目指しているんです。それが決してジョークには見えないように描くことが私にとって重要なことです。
ホラーもそうです。ホラーは人が見下しがちなジャンルですよね。でも、ホラー映画から多くの素晴らしい芸術が生まれる可能性があるんです。ホラー映画を作っている多くの人々は、単なるホラー映画という枠を超えたものを作ろうとしているんです。使い捨ての映画なんかじゃなくてね。自分のやっていることの頂点を目指すということは、とても魅力的なことです。RJは時にバカバカしいんだけれど、彼はベストを尽くしているんです。そういう意味では、共通点はあるのかもしれません。
誰にでもある“若さ”と“老い”の皮肉
――殺人鬼夫婦のパールとハワードは、あまり見たことのないタイプのユニークな悪役です。どういう経緯でこのキャラクターが生まれたのでしょうか。
ウェスト監督:まず、人間味のある悪役を登場させたかったので、スラッシャー映画にとって新鮮な悪役とは何かを考えました。誰もが抱いている普遍的な恐怖って、老いること・死ぬことだと思うんです。人間は若いときは「早く大人になりたい」「自分が年を重ねればうまくいく」と思っていて、一方で、年を取ると「若返りたい」「若い頃に戻れればすべてうまくいく」と思ってしまう。誰も幸せにならない。誰にでもあるこの皮肉が面白くて、ホラー映画のコアの部分にできるかもしれないと思いました。もし年を取って、若返りたいと思っても、それがその人を追い詰めないことを祈っています。でも、この映画ではパールとハワードは狂気に走ってしまうんですけどね! パールを悪役と見るかヒーローと見るか、それは観客次第ですが、とても印象深い存在になってくれると思います。
――ウェスト監督の作品のキャラクターは人間味があって、感情移入したり応援したくなります。キャラクター作りにおいてそういう点を気にされていますか。
ウェスト監督:リアルな人物像を描くようにしていますね。いわゆるホラー映画に出てくるような典型的なキャラクターではなくて、普通はホラー映画には出てこないような、我々の日常生活にいるようなキャラクターというのを描くようにしています。あとやはり、観客に好かれるようなキャラクターにしたい。そうすることによって、「このキャラクターには死んで欲しくない」という思いが生まれて、より緊迫感を持って観てもらえますよね。もちろん、嫌いなキャラクターがあってもいいと思うけれど。
――この映画は3部作になる予定で、次回作はパールについての話だそうですね。次の作品について話せることはありますか?
ウェスト監督:2部作目は完成しています。なのでその詳細はもうすぐ明かされるでしょう。いま言えることは、『X エックス』の60年前を舞台にした映画で、若い頃のパールを描いたもの。そして、今作とはまったくスタイルが違う映画だということです。
『X エックス』
7月8日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
監督・脚本:タイ・ウェスト
出演:ミア・ゴス、ジェナ・オルテガ、ブリタニー・スノウ、スコット・メスカディ(キッド・カディ)、マーティン・ヘンダーソン、オーウェン・キャンベル、ステファン・ウレ
提供:ハピネットファントム・スタジオ、WOWOW 配給:ハピネットファントム・スタジオ
原題:X|R15+|2022 年|アメリカ映画|上映時間:105 分
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