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【インタビュー】ホラー映画『キラーカブトガニ』の監督が語る“カブトガニ”と“日本の怪獣映画”への思い入れ

2023.01.19 by

この記事は1年以上前に掲載されたものです。

放射能によって凶暴化したカブトガニが巻き起こすパニックを描く、コミカルなホラー映画『キラーカブトガニ』が1月20日よりいよいよ公開。

無数のカブトガニが突如人々を襲うなか、一部のカブトガニは巨大化し、二足歩行のクリーチャーに変化。映画はアニマルパニックの枠に留まらず、日本の怪獣映画を思わせるスペクタクルなクライマックスへと突入していく……。

この奇妙でなんとも愛おしい映画はなぜ生まれたのか。なぜ題材にカブトガニが選ばれたのか。初監督作だという本作で、脚本・編集・製作をも一手に手掛けたピアース・ベロルゼイマーがメールインタビューに応じてくれた。カブトガニに対する思い入れや映画にする上での気遣い、東宝の怪獣映画への愛情、撮影の裏側などについて語ってくれている。


画像:ごく自然に肩にカブトガニを乗せているピアース・ベロルゼイマー監督

なぜ誰もカブトガニをホラー映画の題材にしないのかずっと不思議だった

ホラー通信:作品をとても楽しませていただきました。カブトガニのホラー映画を作ろうと思ったきっかけはなんだったのですか? カブトガニは身近な存在だったのでしょうか?

ベロルゼイマー監督:ありがとう、楽しんでくれたみたいで私も嬉しいよ。子供のころから夏になるとビーチにカブトガニがやってきていて、それを見て育ったんだけど、なぜ誰もカブトガニをホラー映画の題材にしないのかずっと不思議だった。見た目は他の生き物と全然違うし、初めて見た人は恐ろしい外見だと思うはずなのにね。アニマルパニック映画が大好きで、そこに登場するユニークで新しいモンスターとしてカブトガニ以外は考えられなかったんだ。

ホラー通信:カブトガニがフェイスハガーのように人を襲うシーンに脱帽しました。カブトガニはそのままでもホラー映画のクリーチャーになりうるユニークなデザインをしていることに気付かされたからです。カブトガニに対してもともとホラーキャラクターとしてのポテンシャルを感じていたのですか?

ベロルゼイマー監督:当然だよ! これ以前にカブトガニのホラー映画が存在しなかったことが信じられない。この作品ではカブトガニの本来の姿にほとんど手を加えていないんだ。甲羅の隆起と棘を少し増やして、大きな爪と口を追加してるけど、プロップの製作には本物の甲羅を使ってる。本当はゆっくり動く生き物だから、『エイリアン』のフェイスハガーのイメージを持ってきたんだ。

ホラー通信:本作のニュースを掲載したときにコンセプトが大ウケして大きな反響がありました。監督ご自身はカブトガニのホラー映画を作ると言ったときに(もしくは完成後に)周りからどんな反応があったのでしょうか?

ベロルゼイマー監督:この作品が日本でウケたらいいなとずっと思っていたんだ。日本のエンタメや文化にかなり影響を受けているから、日本人が受け入れてくれたことに感激してる。でもアメリカではカブトガニはほとんど知られていないんだ。だから原題は “CRABS!” なんだけど、カブトガニは本来クモやサソリに近い生き物でカニじゃないから笑っちゃうよね。この作品に対する批評家の反応にもとても満足してるよ。私が初めて脚本と監督を担当した作品だけど、予想以上に好評なんだ。この作品は完璧という訳ではないし、自分でも欠点は簡単に挙げられる。それにも関わらず、沢山の人がこの作品を愛してくれてることにすごく感謝してる。

現実のカブトガニを恐ろしい存在だと感じさせたくなかった

ホラー通信:オープニングで鼻歌を歌っているカブトガニや、映画『グレムリン』のグレムリンのようにヤンチャしているカブトガニなど、「可愛い」と感じさせるシーンがたくさんありますね。こういった可愛いシーンはどうして生まれたのですか? 監督のカブトガニ観が反映されているのでしょうか?

ベロルゼイマー監督:「キモい」と「カワイイ」の二項対立が好きなんだ。『グレムリン』は最高の例だと思う。クリーチャーが「キモカワ」系だと、作品の中にたくさんゴアを盛り込みつつ、それを笑い飛ばすことが可能になると思う。観客を嫌な気分にさせずにグロいギャグを入れられるんだ。それから、現実のカブトガニを恐ろしい存在だと感じさせないようにしたかった。『ジョーズ』があまりに人々を怖がらせたせいでサメがたくさん殺されてしまったけど、それと同じことが(例え規模はもっと小さくても)カブトガニに起きて欲しくなかったんだ。

ホラー通信:カブトガニの二足歩行のクリーチャーのデザインがとてもクールでした。このデザインはどのようにして出来上がったのですか?

ベロルゼイマー監督:最初はポケモンのカブトプスをモチーフにしていたけど、最終版はそれとかなり異なったものに落ち着いた。スーツの中にちゃんと人が入れるようにしないといけなかったし、「クイーン・クラブ」として(棘も追加して)再利用することも決まっていたから、スーツ自体を大きく、威嚇的なデザインにする必要があったんだ。この作品の一番の心残りは、せっかくスーツを3着も造ったのに、3体のカブトガニが一緒に映るシーンが一度しかないことだよ。学校の講堂で撮影した追加のアクションシーンがあるんだけど、時間と予算の関係でカットせざるを得なかった。『ジュラシック・パーク』のキッチンのシーンの自分なりの再現として、二足歩行のカブトガニが客席を伝いながら主人公たちを探し回るシーンになる予定だったんだ。

伝統的な「東宝っぽい」雰囲気を出せていればいいなと思うよ

ホラー通信:クライマックスは日本の特撮のテイストを感じます。このクライマックスはどうして生まれたのでしょうか? 特撮がお好きなのでしょうか?

ベロルゼイマー監督:日本の怪獣映画は大好きだよ! この映画を作りたいと思った理由の一つは自分の怪獣映画を作りたかったから。怪獣映画としてエンディングを迎えるつもりだったから、脚本執筆の大部分はどうやってそこへ着地させるかを考える時間だった。脚本は結末から書くようにしてるんだ。私のオール・タイム・ベスト5には『シン・ゴジラ』が入ってるよ。

ホラー通信:製作に6年もの時間がかかったと伺っています。これほどまでに時間がかかったのは何故だったのですか?

ベロルゼイマー監督:自分の処女作だったし、初心者がやりがちなミスをだいたい網羅したせいだね。一番大変だったのはVFX。どこから手を付ければいいのか全く分からなかった。VFXの監修のために9か月もベトナムで過ごす羽目になったし、出来上がったVFXのシーンを他のシーンとマッチさせるのにも苦労した。ラストのバトルシーンを撮り切るまでは音響をミックスするスケジュールを決められなくて、編集も終えられなかった。それでかなりの作業がギリギリまでにズレ込んで時間がかかったんだ。元々、最後のバトルシーンは伝統的な東宝のゴジラのようなスタイル、つまりミニチュアのセットを作って撮影するつもりだったんだけど、製作費が高額になりすぎて断念してしまった。だからマットペイントの代わりにドローンで撮影した映像とグリーンスクリーンを使ってる。使われている技術は異なるけど、伝統的な「東宝っぽい」雰囲気を出せていればいいなと思うよ。

ホラー通信:監督ご自身が一番気に入っているシーンを教えてください。

ベロルゼイマー監督:序盤の教室のシーンが一番のお気に入りだ。映画の編集という観点から言っても、私の好きなタイプのユーモアをよく表している場面だと思うし、この作品のトーンを完璧に表現できたと自負してる。話をする機会をくれて本当にありがとう。映画館で日本の観客と一緒に観られたらいいのになぁ!

『キラーカブトガニ』
2023年1月20日 (金) ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、新宿シネマカリテ 他 全国ロードショー

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